4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 19:05:31.19 ID:FiL5OyWgO
甘く軽やかな刺激を持つ声。

天使の鳴き声テノール。

重厚な中に、幼さを残す声。

戦士の雄叫びバリトン。

己を切り崩して捻り出す声。

成長する体への悲鳴ソプラノ。

全てを柔らかく包容する声。

母なる大地のアルト。








('、`*川ネバーランドのようです
6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 19:28:36.81 ID:FiL5OyWgO
(´;ω;`)「ママ、どこに居るの?」

石造りの家が立ち並ぶ中に子供の鳴き声が木霊す。
けれども、それを気に懸ける人など居ない。

娼婦館の並ぶこの通りで、堕胎が間に合わなかった子供が捨てられるのは良くあること。
言わずとも、暗黙の内に皆は拾わないことを決めている。

だが、そんな通りで奇妙な噂が広がっていた。

「気付くと子供の声が聞こえ無い」

疲れて寝てしまったのなら、納得のいきそうなものだが、気付けば子供の姿も無いのだ。

9 名前: 以 下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 19:43:50.04 ID:FiL5OyWgO
娼婦達はこの噂に一つの童話を引用した。

『ピーターパン』

それがこの噂の表面に流れている真相。

そんな話が在る筈などは無いが、娼婦達は命を潰す罪悪感からこの真相を本気で信じ込んでいる。
しかし、それが真相だとしても彼女等娼婦は報われない。

この真相のピーターパンのことを良く知ったならば世界は暗転するだろう。

(´;ω;`)「ひっく、」

叫びを上げるのに疲れた子供はしゃがみ込んだ。
だが、子供は運が良かった。
酔っ払いに殴り殺されることも無く、食人鬼に喰い殺されることも無く、今現在の姿があるのだから
11 名前: 以 下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 19:58:21.48 ID:FiL5OyWgO
「どうしたの?僕」

子供の真上から女性の声が降った。
その声は極めて優しく、怯えさせ無いように細心の注意が払われているのを感じさせる。

(´つω;`)「ママが居ないの」

子供は鼻をすすり、上を見上げる。
見上げる目には、溢れる水滴と共に深い絶望が含まれていた。

こうした子供達が毎日、毎日断末魔を上げて路上に果てて行く。
この通りに置いて日常とは、そんな腐敗臭を放つもののことを言う。

('、`*川「そう、」

女性は持っているハンドバックから、ハンカチを取り出した。
14 名前: 以 下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 20:24:58.36 ID:FiL5OyWgO
('ー`*川「まずはグシャグシャな顔を拭おうね」

子供に差し出したハンカチには、綺麗な刺繍と、丁寧に縫い付けられたレースが付いている。
貧民層のここの住人には、とても届かない値段の品物だ。

(´つω;`)「ありがとう」

そんなこととは露知らず、子供はハンカチをひったくって鼻水と涙を拭き取る。

(´>ω<`)「ちーん」

鼻をかんだ音は何故だか、無性に腹立たしいものだった。

('、`*川「あらあら、ベトベトね」

孫をあやすような声で女性は言う。
17 名前: 以 下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 20:35:42.21 ID:FiL5OyWgO
('、`*川「ねぇ、僕の名前は?」

(´・ω・`)「ショボン」

('、`*川「ショボン君ね、分かったわ」

そう言うと、女性はハンドバックから一枚の紙を出す。

('、`*川「ねぇ、字は書ける?」

(´・ω・`)「書けないの」

('、`*川「そう
ねぇ、年は幾つ?」

(´・ω・`)「五歳なの」

('、`*川「ショボン君のお母さんはどうして居ないのかな?」
19 名前: 以 下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 20:42:44.26 ID:FiL5OyWgO
(´・ω・`)「分かんない」

('、`*川「実はね、ショボン君のお母さんは死んじゃったんだ」

(´・ω・`)「え?」

('、`*川「ジャックザリッパーって言う怖い人がお母さんを殺したんだ」

(´・ω・`)「どうして?」

('、`*川「お母さんがね、身を売って働いてたからだよ」

(´;ω;`)「お母さん…」

女性は、ショボンの関心をそらせる為に嘘をついた。
女性にとって、絶対に来ない娼婦の母を待って死ぬ子供達が居るのは、許せないことだった。
20 名前: 以 下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 20:47:27.76 ID:FiL5OyWgO
('、`*川「だからね、お姉さんの孤児院に来ない?」

(´;ω;`)「孤児院?」

('、`*川「う~んと、君みたいにお母さんが死んじゃった子供とかを預かるところだよ」

女性は、出来るだけ掻い摘んで説明をした。

(´・ω・`)「ねぇ、そこならお友達はいるの?」

娼婦が親のショボンには、友人などいなかった。
それどころか、同年代の知り合いすら居なかった。
22 名前: 以 下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 20:56:47.97 ID:FiL5OyWgO
('ー`*川「沢山居るよ」

(´・ω・`)「本当?」

いつの間にかショボンは泣き止んでいた。
潤んだ瞳からも、既に絶望の影は消え失せている。

('ー`*川「来る?」

女性は今までで一番の笑顔を見せた。

(´・ω・`)「行きたい」

それに対してショボンは即答をする。
もとより、そうする以外は道が全く存在しない訳だが。
25 名前: 以 下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 21:10:27.79 ID:FiL5OyWgO
('ー`*川「じゃあ、案内するわ」

女性はショボンを手で招く。

(´・ω・`)「ねぇ、お姉さん?」

石段を駆け下りながら、ショボンは尋ねる。

('、`*川「何?ショボン君」

それに対して、出来るだけ女性は真摯に答える。

(´・ω・`)「お姉さんのお名前は?」

('、`*川「ペニサスよ、ショボン君」

34 名前: 以 下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/03/26 (水) 21:34:29.69 ID:FiL5OyWgO
石段を歩く小さな足ととても小さな足。

その影は腐敗した通りを越えて、街の方へと伸びていった。













('、`*川ネバーランドのようです
一章
終わり

inserted by FC2 system