1 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30 (日) 20:51:19.08 ID:q43r1oxM0

香水の臭いがする……。

こっちか……向こうに続いてるな……。

まだ離れてないはずだ……。

すぐに見つけてやる……。


第六話「けもの」


4 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 20:54:16.67 ID:q43r1oxM0
    
――14時55分 マルホランド――


マルホランドにある、石造りの家の三階で、ニダーは休憩をとっていた。
埃被った床に腰を下ろし、背中を黒の箱に預けて、歩きっぱなしだった足をマッサージする。

地図に従い街を目指し、彼がここに辿りついたのは、今から半時間前のことだ。
この家には黒の箱を探しに来たのだが、既に誰かが開封した後のようだった。
彼がハコを見つけた時、パネルにはアイテムの名前だけが表示されていたのだ。


<ヽ`∀´>(ついてない……くそ)


彼はまだヒントAを見ていなかった。
そもそも、その存在自体忘れていた。


<ヽ`∀´>「肚子餓了(腹減った)……」
7 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 20:56:58.87 ID:q43r1oxM0
  
体が養分を欲し、ぎゅるぎゅると腹が鳴る。
上陸して以来、川の水しか口にしていなかったので、彼は空腹に襲われていた。

右手に持っていたノコギリを、忌々しそうに睨む。
武器ではなく食べ物にしておくべきだったと、ニダーは大いに後悔していた。
しかし彼は、これがただの外れでは無いかもしれないとも考えていた。


<ヽ`∀´>「……」


ノコギリを裏返し、面に書かれてあった文字を読み取る。
母国の漢字と多少相違はあるが、ニダーでも読めるレベルの日本語だった。

首切り用。
首を切る為のもの。


10 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 20:58:42.39 ID:q43r1oxM0
   
背筋が冷たくなるような、不可解で、恐ろしいメッセージだった。
彼は最初こそ気にしていたが、考えるのに疲れて、やがてどうでも良くなっていた。


<ヽ`∀´>(……それよりも飯だ。早く飯を食べたい)


首切用。
首を切る為のもの。
首を切る為に用意された、被験者用のアイテム――。


彼がこのメッセージの、真の意味を理解したのは、もっと後のことだった。


11 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:00:59.93 ID:q43r1oxM0
  
――14時59分 ラスコリナス――


亀裂の入った道路。
倒れた街路樹。
割れたガラス。

半壊した建物。
道を覆うガレキのクズ。
風に舞う粉塵。

ラスコリナスは、地盤が緩かったせいか、街の中ではダウンタウンの次に荒れている。
ひび割れたビルは今にも倒壊しそうで、歩く道を選ぶ必要があった。


|゚ノ ^∀^)「しぃちゃん。お腹、夜まで持ちそう?」

(*゚ー゚)「うん。大丈夫」

|゚ノ ^∀^)「そう。えらいわね」


13 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:02:58.62 ID:q43r1oxM0
  
レモナとしぃは、森林地帯から下りてきた後、この周辺を探索していた。
入り組んだ道が多く、建物が無くなっていたり、道が塞がっていたこともあり、ハコ探しは難航した。

最初に黒の箱を見つけたのは、しぃの方だった。
「あっちにあるよ」としぃが指さしたのは、建物の影に隠れていた黒の箱だった。

いくら影にあったとはいえ、見落としていたのはレモナの不注意だ。
冷静に振る舞ってはいるが、彼女は精神的に追い詰められていたのだ。

ヒントAを見て、闘いが避けられないと悟ったからである。


|゚ノ ^∀^)(私がしっかりしないと……)


15 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:04:59.81 ID:q43r1oxM0
   
女性であるレモナに、元々闘うという選択肢は無かった。
ただ誰よりも弱い存在であるしぃを守る為、彼女は闘う事を決意したのだ。

目の前の黒の箱とは、これで四度目の対峙となる。
今までしぃを気にして、武器を手に入れなかったが、もう彼女にそんな余裕は無かった。

一刻も早く武装することが、しぃを守ることに繋がる。
しぃの為という意味では同じだが、彼女はそのような理由で、武器を欲していた。


|゚ノ ^∀^)「……」

|゚ノ;^∀^)「!」


パネルを操作し、weaponを選択したとき、体に電流が走ったかのような衝撃を受けた。
震える指を押さえ、ゆっくりとソレを選択する。


17 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:07:34.07 ID:q43r1oxM0
  
スミス&ウェッソンSigma モデル40F。
スライド部分は銀色で、他は黒で統一されている。
グリッピングに定評のある自動拳銃で、装弾数は11発。

まごう事なき、銃だ。


|゚ノ;^∀^)「……」

(*゚-゚)「おねえちゃん……?」

|゚ノ;^∀^)「あ……しぃちゃん。何?」

(*゚-゚)「おねえちゃん……今すごいこわい顔してた」

|゚ノ;^∀^)「……」


18 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:09:56.98 ID:q43r1oxM0
   
銃を手に入れたことで、余計に焦燥がわき上がる。
無性に走り出したい気分になったが、そんなことが出来るはずも無く。
心配そうに顔をのぞき込む少女に、無理矢理顔を作って笑いかけた。


|゚ノ;^∀^)「……いこっか、しぃちゃん」

(*゚ー゚)「うん」


銃を腹に隠し、しぃと手を繋いだ。
重い金属の感触と、しぃの柔らかい手の感触が、何処か現実味を帯びなかった。


19 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:11:39.42 ID:q43r1oxM0
   
――15時31分 マリーナ・警察署屋上――


金網に囲まれた屋上は、何も物が無く、実に殺風景な場所だった。
コンクリートの床が熱を反射し、斜めから注ぐ陽光と板挟みにされているような暑苦しさを感じる。


从 ゚∀从「お腹空いたね」

ミセ*゚-゚)リ「あー、そうですね」


金網の隙間から、西側を監視しているのは、ハインとミセリの二人だ。
先ほどから一人で喋り続けるハインに、ミセリの気のない返事が挟まれる。


ハインは実験開始からずっと緊張状態であった。
警察官であるにも関わらず、気の弱い彼女は、実験のプレッシャーに潰されかけていた。

最初にデミタスと出会った時、心細さで挫けそうだった彼女は、心から安堵した。
その後ショボンと出会い、ミセリを仲間に加え、彼女の緊張は徐々に解けていった。
気が弱いと同時に、単純な性格でもあるのだ。


22 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:14:14.27 ID:q43r1oxM0
  
从 ゚∀从「あ、もしかして香水つけてます?」

ミセ*゚-゚)リ「え? あ……うん、ロリータレンビカの新作」

从 ゚∀从「へーオシャレですね」

ミセ*゚-゚)リ「一応アイドルだし……」

ミセ*゚-゚)リ(しんど……お腹空いた……早く帰りたいな……)



そのハインとは対照的に、ミセリは図太い性格をしている。
ヒントAを見たとき、流石に恐怖を感じた彼女だが、既に落ち着きを取り戻している。

それはショボンという強力なブレインが仲間になったおかげである。
彼のおかげで、ただ歩き回るだけだった実験に、攻略の兆しが見えた。
ハインとは少し違った意味で単純な彼女は、既に実験をクリアした気でさえいた。


26 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:16:19.59 ID:q43r1oxM0
  
その彼女たちとは向かいのフェンスから、東側を監視している者がいる。
光学電子双眼鏡を駆使し、忙しなく辺りを見渡しているのは、ショボンである。


(´・ω・`)(ニダーは、まあ数合わせには出来るだろうが、それ以上は使えなさそうだな。
     ドクオも似たようなものだろう。ブーンやモララーは絶対に避けるべきだ。
     奴らはただの筋肉バカじゃない。おそらくは実験の経験者。僕の手に余る。
     出来ればミルナ辺りがいいな。扱いやすそうだし、見たところ力もある。
     貞子は……出来れば避けたいな。あと残っているのは……)


頭の中で選別を行っている最中、後ろから声をかけられ、彼の思考は中断した。
声をかけたのは、北側を監視していたデミタスであった。


(´・_ゝ・`)「一人見つけました。真っ直ぐこっちに向かってきています」

(´・ω・`)「……どなたでしょうか」

(´・_ゝ・`)「ええっと……彼は確か……」


28 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:18:23.50 ID:q43r1oxM0
  
「イーヨウ、だったかな?」ショボンの脳回路が、名前に反応し、回転を始めた。
年齢は26歳、背格好は小さめで、気性がやや荒く、けんかっ早いところがある――。


(´・ω・`)「一人で行動しているんですか……危ないですね。
     これから何が起こるかわからない。保護の意味も含めて、仲間にしましょう」

(´・_ゝ・`)「ええ、私もそう思います。彼女たちにも報せて来ます」


踵を返し、背中を向けたデミタスの後ろで、ショボンは満面の笑みを浮かべる。
「ぬるいな……本当に」誰にも聞こえないように、口の中で呟く。

事は全て上手く運んでいる。
ショボンはそう思っていた。
それは、大間違いだった。


33 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:20:16.52 ID:q43r1oxM0
   
――16時15分 アイドルウッド――



実験のルールは三種類に分類することが出来る。



一つ目は開始前に明かされるルール。
これは実験全体の趣旨を明らかにするものである。

二つ目は実験中に探していくルール。
被験者が自ら解き明かすものであり、終了条件に直結するものである。


そして最後に、本来明かされないルールというものがある。
これは終了条件とは直接関係の無い、実験の裏ルールだ。

通常、この裏ルールは被験者たちにわからないようになっている。
それは実験を円滑に進める為の、研究者たちが影で実験を操作するシステムであるからだ。
36 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:22:03.46 ID:q43r1oxM0
   
しかし極めて優秀な頭脳と、度重なる実験で培った第六感。
そして生まれついての天才的なセンスが、その裏ルールの存在に気づき始めていた。

モララーである。


( ・∀・)「……」


とある飲食店の厨房に、彼の姿があった。
周りには倒れた食器棚と、割れた皿、グラス、そして厨房道具が転がっている。

薄汚れた壁は、タイルの溝から浸食するように黒ずんでいた。
その厨房の隅に、目当ての黒の箱があり、彼はその前で立ちすくんでいた。


( ・∀・)(流石に、変だな)


パネルに表示されているアイテムを見て、彼は思考を巡らせていた。
箱に入っていたアイテムは、既に手に入れたものか、全く使いようの無いものばかりであった。


38 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:23:59.16 ID:q43r1oxM0
  
現在、実験開始から9時間以上が経っている。
その時点で、モララーは実に16個もの箱を開封していた。

しかし持っているアイテムは、少ない。
彼の背中に背負っているリュックには、8つのアイテムしかない。
16のうち、約半数(ヒントAを抜いて7つ)が食料に回されたということである。

彼は大食漢でなければ、グルメでも無い。
食料は最小限に抑えて、もっと有用なアイテムを手に入れるつもりだった。
しかしあまりにも使えなさそうなものばかりだったので、必然的にそう選ぶしか無かったのだ。


( ・∀・)(他の被験者のアイテム取得状況がわからない以上、何とも言えない事だが……)


普通なら、くじ運が悪いで済ます事だろう。
しかし彼はそうしなかった。
頭に引っかかる何かが、彼にそうさせなかったのだ。


40 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:26:05.80 ID:q43r1oxM0
   
( ・∀・)(黒の箱に良いアイテムが入っている確率は少ない。
      これは正しい。最初の“ハコ”の説明でも言っていた。
      しかし黒、赤の箱どちらにも銃が入っている。これはヒントAからの情報だ。
      これも間違いない。黒の箱で銃を手に入れる事は可能なんだ。
      だが……あまりにも他の武器が劣る。使えそうなのは軍用ナイフだけだったな。
      もっとも、ナイフみたいなタイプの武器は素人が使っても知れている。
      俺やブーン、もしくはセブンのように、格闘の心得が無ければ話にならない。
      人を選ぶ以上、アイテムとしての価値は低いだろう)


カチャ カチャ

手の中で、オイルライターが小さくうごめく。
歯切れの悪い、湿った金属音を鳴らしていた。


( ・∀・)(最も気になるのは保持数だ。最大保持数とアイテムの有用性はほぼ反比例する。
      俺が見つけたアイテムのほとんどが、二桁の最大保持数だった。
      そして誰も取りだしてないアイテムばかりが目につく……)


その事により、モララーはある仮説を考え始めた。
アイテム選択の操作である。


42 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:28:50.57 ID:q43r1oxM0
   
( ・∀・)(俺が箱を開封した時のみ、クズアイテムを選択させる。
      他の被験者、とりわけ弱い者には使えるアイテムを渡す。
      こうすれば被験者たちのステータス差は埋まってくる。
      このシステムは言われなければ絶対にわからないだろう。
      保持数に関しての矛盾が出てくる可能性があるが、箱の数が多すぎて気づけない。
      もしこの仮説が正しければ、箱を探す意味が無くなってくるが……。
      いや、おそらく開封条件の無い黒の箱のみだな。
      赤、銀の箱でこれをされれば、いくらなんでも不自然過ぎる。
      箱の数、そして黒の箱に使えるアイテムが少ないという前提付けがあるからこそだ)


カチャ カチャ
グルグルと回る思考の渦が、やがて一つの答えとして収束していく。


( ・∀・)(ヒントアイテムによって、informationアイテム欄が一つ減った。
      これで箱の中に入っているアイテムが、全て選択出来るという訳では無くなった。
      そしてこれは、アイテム一覧をある程度操作出来る事を示唆している。
      元から選択出来るアイテム数以上のアイテムが収納されている可能性があるんだ。
      そうすれば被験者に見合ったアイテムだけを、一覧に表示させる事が可能になる)


あくまで仮説、あくまで推測の事である。
しかしモララーは、自分の勘に確信に近い自信があった。



48 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:32:51.35 ID:q43r1oxM0
    
( ・∀・)(三つ。俺が箱を見つけたとき、既に開封されていたものは三つだった。
      開封されたハコには、取得したアイテムの名前が出るシステムになっている。
      表示されていたアイテムは、全て俺の知らないものだった。
      初めはアイテムの種類が多いからだと思っていたが、そうじゃない。
      もしそうなら、今まで俺が見つけられなかったのはおかしい。
      だが、この仮説が正しければ、それも納得がいく。
      となると……)


使えるアイテムは、他の被験者から奪うしかない。
彼がたどり着いた答えは、これだった。


( ・∀・)(現時刻は16時23分。
      ヒントAの解放時間から推測すると、ヒントBは19時前後に解放になるだろう。
      俺の勘だと、おそらく次のヒントで戦いは始まるはずだ。
      それまで被験者同士で争う事は出来ない。
      かといって、もう黒の箱はヒントと食料以外開ける必要は無くなった。
      では今俺がすべき行動は……)

( ・∀・)「……」


モララーは厨房奥の倉庫へ歩いていった。
間もなくやってくる戦いに備え、仮眠を取るつもりなのだ。


49 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:34:31.19 ID:q43r1oxM0
  
(  ・∀)「……」

(    )(何か……やる気になってきた……)


血がざわめくような感覚がした。
彼の経験が、勘が、本能が、こう告げていた。

もうすぐ殺し合いが始まると。



(    )(ブーン……)

(    ・)(すぐ会いに行くぜ……)



殺意の螺旋が収束を始める。
モララーが、人から獣へと姿を変え始めた。
運命に恋いこがれた、哀れな野獣へと。


54 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:37:39.45 ID:q43r1oxM0

――16時48分 シティホール前――


(メ`ωメ)「……」

('A`)「……」


巨大なシティホールを横目に、二人は並木道を歩いていた。
ブーンはおもむろに探知機を取り出すと、電源をつける。


(メ`ωメ)「……派閥が出来ているな」

('A`)「派閥?」

(メ`ωメ)「ああ。探知機に表示されている明かりは、俺たちを入れて7つ。
      実際の人数より少ないのは、被験者が近接していると光は重なるからだ。
      俺たちの他にグループで行動している者がいるって訳だな」

('A`)「ああ……なるほど」


それだけ言うと、探知機の電源を落とした。
次に地図を取りだし、現在地と黒の箱の位置を確認し始める。


58 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:39:47.22 ID:q43r1oxM0

(メ`ωメ)「この先の駐車場に一つあるな。それを取ったら、今度は人探しだ」

('A`)「俺たちも合流するんすね」

(メ`ωメ)「まあな。ただ……一つわがままがあるんだ。いいか?」


「何すか?」ドクオは沿道をまたぎながら聞いた。
斜め前に、駐車場への入り口が見えてきた。


(メ`ωメ)「レモナ、ハイン、しぃ。この三人と合流したい」

('A`)「?」

(メ`ωメ)「理由は教えん。いいか?」

(;'A`)「い、いいっすけど……」


有無も言わさない口調だった。
謎の多いブーンに、さらに疑惑の念が募る。


60 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:41:36.79 ID:q43r1oxM0
   
(;'A`)(もしかして知り合いなのか……いや、違うよなあ……ただの女好きかな)

(メ`ωメ)「……」


顔を真っ直ぐ向けたまま、ブーンはずんずん進んでいく。
そのポーカーフェイスから、意図を読み取る事は出来なかった。

二人はそのまま駐車場の入り口を抜け、ぐるっと中を見渡した。
中心にぽつんと置いてある黒の箱は、入り口からでもすぐに見つかった。


('A`)「!」


箱に向かって歩き出そうとしたドクオ。
しかし、ブーンに肩を掴まれ、上半身が仰け反った。


(メ`ωメ)「何かある」

(;'A`)「え……」

(メ`ωメ)「箱の前だ」


63 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:43:32.55 ID:q43r1oxM0
   
目を凝らしてみるが、何も見えない。
ブーンの片目に映ったのは、一体何なのか。


(メ`ωメ)「……俺の後ろにいろ」

(;'A`)「はい」


ブーンは周りに注意しながら、そっと箱に近づいていった。
その背中にぴったりとくっついて、ドクオも後をついていく。

しばらく歩いていくと、ドクオにも箱の前に置いてあるものがわかった。
それは二つの缶詰だった。
まるで食べる直前のように、ちゃんと立てて置かれている。


(*'A`)「食料っすよ。まだ開けてない」

(メ`ωメ)「……」

(*'A`)「ラッキーすね」


65 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:45:42.75 ID:q43r1oxM0
   
(;'A`)「……?」


缶詰に近づこうとしたドクオは、ブーンの片腕に止められた。
その横顔は険しく、声もかけられない程、怖い。


(メ`ωメ)「変だ。おかしい」

(;'A`)「え……」

(メ`ωメ)「これは一体どういう事だ……」


ブーンは缶詰を避け、黒の箱まで近づいていった。
パネルの表示を見て、また唸る。


(メ`ωメ)「どう考えても説明がつかない。何が起こったらこうなるんだ」

(;'A`)「ど……どうしたんすか」

(メ`ωメ)「この缶詰だ」


68 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:47:51.44 ID:q43r1oxM0
   
(メ`ωメ)「この黒の箱から取りだしたアイテムだろうが、何故ここに置いてある?」

(;'A`)「置き忘れじゃないんですか?」

(メ`ωメ)「馬鹿か。そんな訳ないだろう。
      わざわざ自分で選んだアイテムを置き忘れる事なんてありえない」

(;'A`)「でも……じゃあなんでここに」

(メ`ωメ)「それだ。全く検討がつかない。食料以外ならまだわかる。
      選んだアイテムが使えないものだった場合、その場で捨てる事もあり得る。
      しかしわざわざ食料を選んでおいて、捨てるなんて考えられないだろう。
      ……待てよ」

('A`)「?」

(メ`ωメ)「アレルギーか」


ブーンは缶詰を手にとって、ラベルを確かめた。
エビとメロンの文字が、飾り付けされた美味しそうな写真と一緒に描かれている。


(メ`ωメ)「エビもメロンもアレルギーがある。
      おそらく、この箱を開けた者はそのアレルギーを持っていたんだな」

('A`)「それなら納得いきますね」


71 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:49:46.55 ID:q43r1oxM0
   
(メ`ωメ)「まあ、だからと言って捨てるのは短絡的だと思うが……」

(*'A`)「それ食べますか?」

(メ`ωメ)「いや、やめておこう。毒という可能性もある」

(;'A`)「ああ……ですね」


空腹で腹がしぼむように苦しいドクオは、小さなため息をついた。
「ちょっとトイレに行ってきます」肩を落としたまま、駐車場の隅にある公衆トイレへと歩いていく。


(メ`ωメ)(ふう……時間が無い。次のヒントまであと二時間というところか。
      出来ればそれまでに三人を見つけたいところだが、出来るか)


煙草を取りだして、手早く着火した。
急速に落ち始めた太陽に向かって、紫煙の塊をぶつける。


(メ`ωメ)(いや、やるんだ。絶対に見つけなければ)


探知機を見つけた時、彼は一つの作戦を思いついていた。
それは行動パターンから、レモナ、ハイン、しぃが何処にいるか探るというものである。


72 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:51:37.76 ID:q43r1oxM0
   
おそらく一カ所に留まるだろうと予測していたブーンだったが、当てが外れた。
実際には、被験者全員が誰一人留まることなく動き続けていた。


(メ`ωメ)(こんな事なら、多少危険を冒してでも自分から探すべきだったな……くそ)


モララー、セブンとの接触を避ける為だったのだが、慎重になりすぎた。
戦いが始まってからでは、探すのはさらに危険になる。
加えて彼がそれ以上に危惧しているのは、例え合流出来ても仲間に出来ない場合がある事だ。


(メ`ωメ)(戦闘状態になり、一度警戒してしまうと、もう仲間には出来ないだろう。
      俺とドクオ……我ながら信用出来そうにないコンビだ)


煙を大きく吸い込んで、足下に落とした吸い殻を踏みつぶした。
それから深呼吸のように、ゆっくりと煙を吐き出していく。


(メ`ωメ)「……ん」


77 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:53:33.67 ID:q43r1oxM0
   
公衆トイレの方に目をやると、入ってすぐのところにドクオの背中が見えた。
まるでそこだけ時間が止まっているかのように、微動だにしていない。

何か悪い予感がし、ブーンは駆け足でトイレを目指した。
入り口の手前で立ち止まり、その奇妙な光景を間近で観察する。


(   )「……」

(メ`ωメ)「どうした」

(   )「……」

(メ`ωメ)「……?」


声をかけても、返事は無かった。
よく見ると、足が震えている。

ブーンは訝しげな表情を浮かべながら、ドクオの後ろに回った。
するとドクオの肩越しに、背筋が凍るようなおぞましい光景が見えた。


81 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:55:19.27 ID:q43r1oxM0
    
服をはぎとられた体が、トイレの地面に転がっている。
腹を切り裂かれ、肉をえぐられ、内蔵が丁寧に並べられていた。

顔は絶叫の表情で固まっており、その者の苦悶が見えるようだ。
流れ出た血液は、体を中心に広がり、排水溝へと続いている。

ミルナの、死体だった。


(   )「ブ……ブーン……さん……」

(  ゚)「これ……何すか……」

(メ;`ωメ)「……」


ブーンはドクオを掴み、トイレの中から引っ張り出した。
足に力が入っておらず、ドクオは反動でその場に倒れた。

声をかけたが、あまりのショックで何も言えないようだ。
ドクオを置いて、ブーンは再びトイレの中へと入る。


82 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:57:10.44 ID:q43r1oxM0
   
(メ;`ωメ)(何だ……この死体は……)


彼はただの死体なら見慣れている。
傭兵として戦争に参加していたのだから。
しかしミルナの死体は、あまりにも奇妙で、不可解なものだった。


(メ;`ωメ)(ありえない……一体何をされたらこんなことに……)


死体には、あるべきものが無くなっていた。
それは肉だ。

腕の肉、太ももの肉、ふくらはぎの肉、腹の肉。
ありとあらゆる体の肉が、綺麗な切り口で切り取られ、無くなっていたのだ。


(メ;`ωメ)「……」


恐ろしい推測が彼の頭に浮かび上がる。
鋭利な刃物で、人間の体をさばき、食べた。

そう、この死体は誰かが食べたようにしか思えなかったのだ。
人の形をした、獰猛な肉食獣と化した何者かに――。


85 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 21:59:18.95 ID:q43r1oxM0
    
――17時04分 バインウッド・マーケット――


マーケットの屋上、小汚いタンクの前に、ショボンたちは集まっていた。
タンクの影には、目当ての赤の箱が見える。

ショボンは一度、全員を見渡してから、赤の箱に近づいていった。
センサに指を乗せて指紋認証を行ってから、皆に振り返る。


(´・ω・`)「では皆さん。指紋認証をお願いします」


その一声で、他の者は順次赤の箱に歩み寄った。
全員が認証を行うと、パネルの表示が変わり、アイテムの選択画面となる。


(´・ω・`)(そうだ……忘れていた)

(´・ω・`)「すいませんが、皆さんの持っているアイテムを見せてもらえませんか?」

ミセ*゚-゚)リ「何で?」

(´・ω・`)「既に持っているアイテムや、効果の似ている物はなるべく選びたくないので」

(´・_ゝ・`)「なるほど。確かにそうですね」


87 名前: ◆CnIkSHJTGA 投稿日: 2008/03/30(日) 22:00:31.53 ID:q43r1oxM0
    
五人は自分のアイテムを、コンクリートの床に並べていった。
地図しか持っていない者ばかりだったが、ただ一人だけ、妙なアイテムを取りだした者がいた。


(´・ω・`)「……そのナイフは、weaponアイテムの一つですか?」

「そうだよ」

(´・ω・`)「名前は?」






(=゚ω゚)ノ「ククリナイフ、だったっけ」


そのアイテムを、ショボンは知っていた。
箱の選択画面で見つけた時、保持数が0だった事も。

ただしあれから数時間が経っている。
そのせいで、イーヨウがそのアイテムを持っている事を、ショボンは何ら不思議に思わなかった。

これが、ショボンの二つ目のミスだった。


第七話「くびとり がっせん」へ続く




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