('A`)ドクオは人体実験の被験者にされたようです

3 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 20:39:00.79  

常識、倫理、理性、情。
それらは時として、自らを縛り付ける拘束具となる。

敵意、暴力、欲求、狂気。
それらは時として、闇に巣くう獣として姿を現す。

世界から自分を切り離し、極限まで蒸留させた時。
本当の自分が見えてくることだろう。
それが例え醜悪な化け物であっても、否定してはいけない。

貴方を否定しようとする貴方がいる限り。
貴方の否定は誰にも出来ないのだから。


第四話「ぺるそな」


5 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 20:41:07.13  

――09時23分 エル・コローナ――


オーシャン埠頭に近い、海に面したストリート、エル・コローナ。
ガードレール越しに広がる海と、製鉄所の建物が並んでいるだけの、何とも味気ない場所だ。

潮風に錆び付いた看板が、斜めに傾いている。
巨大な工場や、敷地の塀を大きくはみ出す緑色のタンクが、陽の光を遮っていた。

この通りを、とぼとぼと歩いている二人の人影がある。
所々ひび割れているアスファルトの道路を、彼らは一歩ずつ前に進む。


( ゚д゚)「おいイーヨウ。おせえぞ」

(;゚ω゚)ノ「はぁ……はぁ……はぁ……」


6 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 20:42:10.69  

イーヨウのTシャツは、汗でびしょびしょになっていた。
顔中から吹き出る脂汗が、目に入り、顎からしたたり落ち、口の中に入り……。
まるで全身が汗の膜に覆われたような不快感を感じながら、それでも彼は懸命に歩いていた。


( ゚д゚)「おい、大丈夫かお前?」


数メートル前を、涼しげな顔で歩くミルナが言った。
現在は7月下旬であるが、このウルフアイランドはさっぱりとした気候で、気温もあまり高くない。

イーヨウが悩まされていたのは、気候の事ではなく、自身の体の事だった。
気が狂いそうな程の、飢えと、渇きだ。


8 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 20:43:54.99  

(;゚ω゚)ノ「だ……だいじょ……ぶ。早く……ハコを……」

( ゚д゚)「本当に」

(   ゚  д゚)「大丈夫かよ?」

(;゚ω゚)ノ「……ああ……腹……へ、減ってるだけ……」


視界が歪み、ミルナの姿がぼやける。
意識を立て直し、再び一歩、体を踏み出す。
まるでリハビリだな、とイーヨウは自分自身に苛立ちを覚えた。

一歩、また一歩と足を踏み出す度に、不安定に体がぐらつく。
体の動きはぎこちなく、まるで操り人形のようだった。


11 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 20:49:34.47  

(゚  д  ゚  )「ふうん……まあいいけどよ。さっさと歩けよ」

(;゚ω゚)ノ(うるせえ……それが出来たらやってんだよボケ)


足を引っ張っている事に、一応は非を感じているので、彼は心の中だけで毒づいた。
もう唾も出ない。
空腹でいつ倒れてもおかしくない。
自分の体に何が起こったのか、イーヨウは考え始める。
しかし……


(;゚ω゚)ノ(チャーシュー……ステーキ……牛丼……トンカツ……カレー……肉……肉……肉……)


思い浮かべるのは、自然と食べ物の事になっていった――。


13 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 20:52:26.44  

――09時33分 グレンパーク――


グレンパークは、街のど真ん中にある公園だ。
いくつかのベンチと、小さな池しかない簡素な場所である。
芝生はやや伸び気味であるが、元々何も無い場所であった為、今でも綺麗なまま残っていた。

入り口は南北に一つずつあり、そこから公園を真っ直ぐ横切るように道が伸びている。
それなりに大きく、360度街を見渡せる事も出来て、景色が良いので散歩コースとしてかつては人通りも多かった。


ミセ*゚−゚)リ(はぁ……だる)


ミセリは黒の箱にて、地図(Lv1)を手に入れていた。
二つ目のハコを見つけるため、地図をたよりにこの公園にやってきたのだ。


14 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 20:54:26.55  

彼女はモララーのように、アイテム収集に明確な目的を見いだしている訳では無い。
ただ単に、お腹が空いていたので、foods目当てでハコを探しているだけであった。


ミセ*゚−゚)リ(! あった)


まばらに生えている木の傍に、黒の箱を見つけて近寄る。
液晶パネルには、最初の黒の箱と同様に、YESボタンを押せと表示してあった。

同じ説明を見る必要は無いので、彼女はNOボタンを押す。
画面が切り替わり、現れた選択肢のfoodsを選択しようとしたところで、ふと手を止めた。


ミセ*゚−゚)リ(……他に面白いものがあるかも)


16 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 20:57:47.87  

せっかく黒のハコを発見したということで、他に何があるか見たくなった。
彼女はfoodsをやめて、weaponを選択した。

【ノコギリ】 0/14
【ブーメラン】 0/12
【バルディッシュ】 0/3


ミセ*゚−゚)リ(バルディッシュ? 何だろこれ)


三つの選択肢の中に、見慣れない名前があった。
最大保持数も少なく、彼女の興味が少しだけ沸く。
説明を見る為、彼女はそれを選択した。


21 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 20:58:53.43  

【バルディッシュ】
通常は150pほどの柄を持ったポールウェポンである。
しかしここでは扱いやすさを重視し約110pに留めた。
先端部に三日月状を描いた全長35pのアックスヘッドが横向きについている。
重量は約2.5キロ。


説明は以上であった。


ミセ*゚−゚)リ「……つまんない」


24 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 20:59:31.82  

ミセリはRETURNボタンを押し、最初の選択肢まで戻った。
informationは選択すらせず、さっさとfoodsの方を選択する。
既にハコを一つ開封しているので、手慣れた動作で生体認証を済ませ、アイテムをゲットした。


ミセ*゚ー゚)リ「昼……朝ご飯? まあどっちでもいいや」


手に入れたアイテムは、二つの缶詰、水の入ったペットボトル。
彼女はハコを背もたれにして座り、遅い朝食、早い昼食を始めた。


26 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:00:49.07  

――09時40分 ノーススターロック――


山間部の一つである、ノーススターロックには、名称の由来である大小様々な岩が転がっていた。
背の高い林に囲まれていて、街からはやや離れた場所である。

そこに、一人の少女と、女がいた。
二人は今、街を目指して林を突っ切っていたところだ。
このノーススターロックにたどり着いたのは、偶然であった。


|゚ノ ^∀^)「ちょっと休憩しようか」

(*゚−゚)「うん」


見渡すと、近くにちょうど良い、真っ平らな岩があった。
レモナとしぃの二人はその上に腰を下ろした。


27 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:02:14.77  

|゚ノ ^∀^)「お腹空いてる?」

(*゚−゚)「……ううん」

|゚ノ ^∀^)「そう。お昼になったら、これ食べようね」

(*゚ー゚)「うん」


レモナは両手に、重ねてある二つの缶詰と、ペットボトルを持っている。
彼らはミセリ同様、一つ目のハコで地図を手に入れ、二つ目のハコで食料を手に入れていた。

本当は、レモナは武器を一つ、手に入れておきたいと思っていた。
だが彼女は、しぃを怖がらせてしまうかと思い、食料を選択したのだ。


29 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:04:48.69  

レモナは横目で、そっとしぃの表情を観察する。
しぃは足をぷらぷら揺らし、空を飛んでいる鳥をじっと見つめていた。
多少の疲れこそは見えど、レモナが思っていたより元気そうであった。


|゚ノ ^∀^)「……しぃちゃん」

(*゚ー゚)「何?」

|゚ノ ^∀^)「お父さんとお母さんは、何してる人?」


気を紛らわせる為の、何気ない会話のはずだった。
しかし返ってきた返事は、強烈なカウンターであった。


(*゚ー゚)「しぃのお父さんと、お母さん、もういないよ」


30 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:07:04.48  

|゚ノ;^∀^)「え……」


意味を理解していないのか、それともちゃんと理解しているからか。
しぃはきっぱりとそう言いはなった。


|゚ノ ^∀^)「……そうなんだ」


林のどこかで、鳥の鳴き声が聞こえた。
面食らったレモナを、嘲笑するかのように。


|゚ノ ^∀^)「……私も、いないの。お父さんと、お母さん」

(*゚−゚)「……」


33 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:09:41.96  

聞き出す代わりに、レモナは自分のことについて話し始める。
しぃが孤児であるのと同様に、レモナ自身も、孤児であったのだ。
子供相手に話すことでは無いが、今は会話をすることが大事だ、レモナはそう割り切った。


|゚ノ ^∀^)「私が生まれてすぐに、お母さんが死んじゃった。
      だからお母さんの顔は、写真でしか見たことないの。
      お父さんの顔は覚えてる。すごく優しい人だったことも。
      あのね、私がイタズラしたら怒るんだけど、全然怖くないの。
      だから同じイタズラを何回もして、困らせてた記憶があるわ」


しぃは黙って、レモナの話を聞いている。
レモナは聞き取りやすくするために、絵本の語り手の様にゆっくりと喋った。


37 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:14:05.91  

|゚ノ ^∀^)「私が小学校に入って、一年目の三学期。お父さんが、急にいなくなったの」

(*゚−゚)「!」


レモナを見つめるしぃの目が、ぴくりと反応した。
しぃは何か言いたげに、かすかに口を動かしている。


|゚ノ ^∀^)「結局お父さんは帰ってこなかった。その後、私は親戚の家に預けられたの。
      最初はすごく優しくしてくれたんだけど、その内いじめられるようになっちゃった。
      テストでちょっと悪い点取っただけで、ご飯が出なかったり。
      一週間近くお風呂に入らせてもらえなかったりね。
何で急に態度が変わったのか、今でもわからない」


41 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:16:20.51  

淡々と話していたが、本当はレモナにとって辛い思い出であった。
十年以上が経った今でも、思い出す度に、心が締め付けられる思いをする程に。


|゚ノ ^∀^)「三年にあがるちょっと前に、施設に入れられることになったの。
      施設っていうのは、お父さんとお母さんがいなくて、家も無い人が行くところよ。
      私の場合、ちょっと心の病気になってて、そこに行くことになったの。
      今考えたら、私を施設に入れたいから、意地悪したのよね。きっと」

(*゚−゚)「お姉ちゃん……」

|゚ノ ^∀^)「どうしたの?」


ここでレモナは、再びカウンターパンチを喰らう。


42 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:18:42.43  

(*゚−゚)「しぃのね、お父さんとお母さんも、いなくなっちゃったの。
     病気とかね、車で怪我したとかじゃないの。消えちゃったの」

|゚ノ;^∀^)「え?」

(*゚−゚)「新しいお父さんとお母さんがね。
     しぃのお父さんとお母さんは、ゆくえふめいで消えちゃったって。
     あのね、しぃもいじめられたよ。家の中でね、服着ちゃ駄目って言われたの」

|゚ノ;^∀^)「しぃちゃん」

(*゚−゚)「泣いたらお腹を叩かれるの。我慢するけど、お腹が痛いから泣いちゃうの。
     そしたらまた叩かれるの。すごい痛いんだよ。それでね……」

|゚ノ ^∀^)「しぃちゃん……」


43 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:21:03.24  

レモナはそっと腕を伸ばし、しぃの小さな体を抱き寄せた。
骨張った体は、小刻みに震えていた。


(* − )「しぃもね、病気になったの。寝れない病気になって、夜に寝れなくなったの。
     ご飯が食べられなくなったの。それでね、新しいお母さんがね、しぃを病院に連れて行ったの」

|゚ノ ^∀^)「しぃちゃん……もういいよ。もういいから……」

(*;−;)「でもね。病院じゃなかったの。子供がいっぱいいたの。
      しぃはね、今日からここで暮らすんだよって、先生に言われたの」


44 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:21:32.97  

嗚咽混じりの声は、そこで途絶えた。
胸の中で泣き続けるしぃを、レモナはぎゅっと抱きしめる。

レモナから、もういないお母さんの匂いがした。
しぃから、あの日世界を呪った自分の匂いがした。

泣き声は、やがて二重になり、ノーススターロックに響き渡った。


48 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:25:36.02  

――09時46分 ロデオ――


サンタマリアビーチから少し北に進んだところに、ロデオというストリートがある。
旅行客の為の小物屋などが並ぶ、商店街のような通りだ。

震災が起こる以前は、観光スポットの一つとして、パンフレットに載っていた場所である。
今ではもちろん無人で、おまけに店の中のものは、ほとんど取り払われていた。
かつての賑わいの断片がある分、余計に寂しい通りであった。


从;゚∀从(早く誰かと合流したいな……)


荒れ果てた商店街の中、ハインは道の真ん中で一人地図を広げて、行き先を考えていた。


49 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:28:10.98  

彼女はやがて、一番近くにある黒のハコを目的地と決めた。
ハコの近くで待っていれば、誰かが見つけてくれるだろう。
ハインはそう考えた。


从 ゚∀从(はあ……どうしてこんな事になったんだろう)


地図をたたみ、ポケットに入れてから、彼女は憂うつそうにため息をはき出した。

三年前、結婚を約束していた恋人を失ってから、何をやっても失敗続きだった。
仕事で上司に怒られる度に、自分は警官に向いていないと自覚させられる日々。
それに嫌気が差し、ついに仕事を辞める決意をした直後に、この実験がやってきたのだ。

その年の被験者に選ばれる確率は、およそ一千万分の一。
彼女は恋人と共に、ツキにも見放された。


50 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:31:52.30  


――運が無いよな、俺たちってさ


ハインたちが、二十枚購入した宝くじで、結局600円しか当たらなかった時。
はにかんだ笑顔と一緒に、恋人が言った言葉である。


从 ゚∀从(……運が無いよね、私たちってさ)


彼女も、彼女の恋人も、運が無かったのだ。
二人がもう少しだけ、くじ運が良ければ、今頃ハインの苗字は変わっていたことだろう。
ハインの恋人が実験中に死亡し、そしてハインも、その被験者に選ばれることなんて、無かったことだろう。

二人は運が悪かった。
運命に牙を剥かれたのだ。


54 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:36:16.07  

――10時11分 ヒルトップ・ファーム――


ノーススターロックの西北西の方向に、木の柵で囲まれた、質素な農場があった。
いくつかある平べったい小屋は、全て空っぽになっている。
かつて牛舎や鶏小屋に使われていた痕跡だけが、そこに残っていた。


<;`∀´>「可靠了(くそ)」


風車の横に建てられていた倉庫の中で、ニダーは二つ目の黒のハコに向かっていた。
weaponを選択し、表示された文章を見て、忌々しげに舌打ちをする。

彼は漢字を読むことが出来たが、日本語自体は読めなかった。
ハコの説明も、最初の部分だけ何となく理解しただけで、最大保持数などの記述については、解読出来ていなかった。


55 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:37:17.51  

アイテムを選択する際も、平仮名やカタカナを無視し、漢字だけを読んでアイテムの説明を推測する必要があった。
一回目のハコで選択した地図は、割と簡単に読み取ることが出来た。
しかし他のアイテム、とりわけweaponのアイテムはほとんど意味がわからない。

自分を陥れる為に、わざと漢字を使っていないのでは無いか。
ニダーがそう思うほど、彼にとって難解な文章であった。


<;`∀´>「不得已。迪当遷肥(仕方ない。適当に選ぶか)」


56 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:38:54.90  

表示されている三種類の武器の中で、横に書いてある文字が一番大きいもの。
つまり、最大保持数が一番大きいアイテムを、ニダーは選択した。

ハコの中から機械音が鳴り始め、数秒後、それが止むと、蓋がスライドを始めた。
強力な武器を望んでいるニダーの眼前に、刃渡り30pほどのノコギリが、ゆっくりと姿を現し始める。

「こんなもので戦えるか」。
ニダーが母国語で叫んだのは、その直後だった。


59 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:42:01.81  

――10時25分 シティホール前――


( ゚д゚)「foodsでいいのか? 武器とか見たいんだけど」

(;゚ω゚)ノ「た……食べ物……食べ物を……お願いします……」

( ゚д゚)「へーへー」


巨大なシティホール前の駐車場で、彼らはようやく黒のハコを発見した。
駐車場には一台も車が止められておらず、ど真ん中にハコが置いてあったので、すぐに発見できた。

イーヨウは地面に倒れ込み、必死に飢えと渇きに堪えていた。
そんな彼を尻目に、ミルナは口笛を吹きながらfoodsを選択し、生体認証を済ませる。


61 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:44:42.39  

( ゚д゚)「ほらよ」


開け放たれたハコから、二つの缶詰とペットボトルを取りだし、イーヨウの前に置いた。
イーヨウは目を輝かせて、缶詰を手に取る。


(;゚ω゚)ノ「あ……」


パッケージから、缶詰の中身がわかった。
一つはエビ、もう一つは、メロンの缶詰だった。
どちらも、イーヨウは重度のアレルギーを持っていて、とても食べられるものでは、無かった。


( *゚д゚)「どっちを食べる? 俺さ、どっちも好きだから、お前に選ばせてやるよ」

(;゚ω゚)ノ「あ……あ……あ……」


66 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:47:41.36  

ミルナは腰を下ろし、瀕死のイーヨウに問い出す。
イーヨウはその食べられない二つの缶詰を、交互に見渡していた。

エビ、メロン。
エビ、メロン。
エビ、メロン。
エビ、メロン。

目の前には、ミルナ。


( *゚  д゚  )「運が良いよな。エビとメロンだぜ? 缶詰ってのがアレだけどよ」


68 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:50:04.69  

エビ、メロン。
エビ、メロン。
エビ、メロン。
エビ、メロン。
エビ、メロン。
エビ、メロン。

目の前には――ミルナ。


(゚д  ゚  )「あ、そうそう。俺ちょっと便所行ってくるわ。二つとも食べたらぶっ殺すからな」


ミルナはイーヨウを置いて、駐車場の隅にある公衆トイレに歩いていった。
その間にも、イーヨウの視線はエビとメロンの缶詰を交互に行き交う。

しかし、彼の視線は、徐々に別のものへと移っていった。
彼に残された、もう一つの選択肢へと。


73 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:53:09.39  

エビ、メロン。
エビ、メロン。
エビ、メロン。
エビ、メロン。
エビ、メロン。
エビ、メロン、ミルナ。
エビ、メロン、ミルナ。
エビ、メロン、ミルナ。
エビ、ミルナ、メロン、ミルナ。
エビ、メロン、ミルナ、ミルナ。
ミルナ。
ミルナ。
ミルナ、ミルナ、ミルナ、ミルナ、ミルナ、ミルナ。
ミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナ。
ミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナ。
ミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナ。
ミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナ――。


79 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:56:18.41  

――10時53分 ダウンタウン――


割れた窓ガラス、瓶。
ウジの湧いているゴミ箱に、壁にはスプレーで描かれたスラングの嵐。
腐ったドブの臭いが充満した、ゴミ箱のような町、ダウンタウン。
ウィロウフィールドが富裕層の町なら、ここは貧困層の住む町である。

建物が脆かったせいか、震災の影響をもろに受けていた。
半壊、全壊している建物の残骸のせいで、ただでさえ狭い道が、さらに歩きにくくなっている。
ここを歩くには、それを乗り越えて行くしかなかった。


(´・ω・`)(やっと、三つ目か……)


ショボンは薄暗い、細い路地の奥で、三つ目の黒のハコを見つけていた。
ハコの前まで近寄ると、背中に背負っていたリュックサックを地面に下ろした。


82 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 21:59:30.86  

彼が今まで手に入れたアイテムは、地図(Lv1)と、ハコ探知機である。

ハコ探知機とは、小さなコンピュータで、近くにあるハコを検索する機械である。
レーダーがハコを捕らえると、自動的に画面上に反応が出るものだ。
彼はそれを手に入れてから、時折スイッチを入れて、近くにハコが無いか探していた。


(´・ω・`)(さて、何が入ってるかな)


黒の地図を手に入れた上で、何故ハコ探知機が必要になるか。
それは地図Lv1では探しきれない、赤の箱、銀の箱を見つける為であった。
レアアイテムが入っているとされている、赤、銀の箱を見つけておけば、それだけ有利になれるという訳だ。


(´・ω・`)(こい……こい!)


ショボンはfoods、weapon、informationの中で、真っ先にinformationを選んだ。


83 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 22:02:09.19  

しかし現れた選択肢を見て、ショボンはがっくりと肩を落とす。

【時計】 0/14
【地図Lv1】 9/14
【ハコ探知機】 1/6


(´・ω・`)「……はぁ」


必要性のかけらも感じない時計と、既に手に入れている地図とハコ探知機。
落胆をため息にこめて吐き出し、彼はRETURNボタンを押した。

次にweaponを選択し、画面を切り替える。
現れたのは、次の選択肢だった。


87 : ◆CnIkSHJTGA :2008/02/01(金) 22:04:05.61  

【ブーメラン】 0/12
【ククリナイフ】 0/10
【トンファー】 0/8


(´・ω・`)「……食べ物にするか」


彼は結局foodsを選択した。
手に入れた缶詰とペットボトルを、リュックサックに詰め込む。
退屈な実験だ、彼は飛行機の中で味わったスリルと、ハコ探しの単純労働を比べてそう呟いた。



死と狂気が、じわりじわりと迫り始めている。
彼は、いや被験者のほとんどが、まだその事実に気がついてはいなかった。


第五話「なかまごっこ」へ続く


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