('A`)ドクオは人体実験の被験者にされたようです
- 3 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:22:23.55
震災によって崩壊した街、ウルフアイランド。
所々にガレキの山が出来ており、道路には大きな亀裂がいくつも走っていた。
立ち並ぶ店のウィンドウは、そのほとんどが割れている。
中には家具が残ったままになっていた。
風が吹く度に、荒れ果てた廃墟に砂埃が舞った。
道路に止めたままになっている車や、無人の公園が、かつて人がいたことを匂わせる。
かつて夢の島と称されていたこの場所は、今では”死”に覆われていた。
第三話「はこ」
- 4 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:24:34.42
――07時19分 ウィロウフィールド――
ウィロウフィールドには、数十軒の民家が並んでいる。
かつては複数ある居住区の一つとして機能していたが、今ではもちろん無人だ。
そこにある全ての家に、庭や大きなガレージがついていた。
ウィロウフィールドの住民は、高い水準の暮らしをしていたことがわかる。
かといって、ウルフアイランドの住民全員が、金持ちだという訳ではない。
ウルフ社の社長は、この島に小さな世界を作ろうとしていた。
そこには貧富の差があり、犯罪があり、リゾートがあり、自然があった。
世界中から人を呼び寄せ、様々な人種や国籍の人間たちが、この島で生活していた。
その中で、特に金を持っていた者が、このウィロウフィールドに住んでいたという訳だ。
- 5 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:26:48.72
「起きろ、ドクオ」
('A`)「ん……?」
(メ`ωメ)「起きろ。おい」
(゚A゚)「うおっ!」
(メ`ωメ)「……いい加減慣れろ」
(;'A`)「す……すいません。ここは……?」
ドクオが目を覚ましたのは、一人用のソファーの上だった。
体を起こし、辺りを見回す。
- 7 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:28:49.56
そこはとある一軒家の、リビングの中だった。
フローリングの床に、ほこりや砂のようなものが薄くつもっている。
椅子や食器棚が倒れたままになっていて、座っていたソファーは穴だらけだ。
部屋の隅にテレビが置いてあるが、一度倒れたのか、画面が割れている。
至る所にガラスの破片が散らばっていて、とても素足では歩けない。
('A`)(俺……俺は……)
ドクオはぼんやりと、気を失う前のことを思い出し始めた。
- 9 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:30:45.24
飛行機。
パラシュート。
ダイブ。
断片的な記憶のピースが、ぽつぽつと頭の中に浮かび上がる。
それが繋ぎ合わさり、完全な記憶として蘇るのに、時間はかからなかった。
('A`)「そうか……俺、助かったのか……」
(メ`ωメ)「ドクオ。ちょっとこっちにこい」
('A`)「あ、はい」
助かった事を安堵する間もなく、ブーンによってせき立てられる。
まだ覚醒していない頭を抱え、ドクオは恐る恐るブーンについていった。
- 11 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:32:23.83
割れたガラス戸を抜け、荒れ果てた庭を通り抜けると、ガレージの前に出た。
比較的損壊の少ないガレージは、ブーンが引き上げると、ガラガラと音を立てて上まで開ききった。
ガレージの中は広く、ボックスタイプの車が一台と、整備用の道具やらが散らばっている。
('A`)「あ……!」
その奥に、飛行機の中で見た、あの正方形の箱が置かれていた。
違うのは、銀色ではなく、黒一色に染まっていることだ。
(メ`ωメ)「パラシュートで降りた後、この家にお前を置いて、辺りを探索しようとした。
そうしたら、この家のガレージにこれがあったんだ」
- 12 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:33:51.35
('A`)「何が入ってたんすか?」
(メ`ωメ)「いや、まだ開けていない。お前も見る必要があったからな」
('A`)「? 見るって……何を?」
ドクオの問いに返事はせず、ブーンはガレージの奥へ進む。
疑問を抱えたまま、ドクオはブーンに続き、その黒い箱に近づいていった。
その箱は、飛行機で見た物よりも、一回りほど大きかった。
箱の上部に、銀の箱と同じように液晶パネルがついていて、現在の時刻と、短い文が表示されている。
[07:23]
【YESボタンを押すと、”ハコ”についての説明が聞けます】
ブーンが見せたかったものとは、この説明のことであった。
- 13 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:35:26.21
(メ`ωメ)「早速始めるぞ」
液晶モニタの横に、青、赤、緑色の三つのボタンがついている。
それぞれ”YES”、”NO”、”RETURN”と書かれていた。
ブーンはその内のYESボタンを押した。
液晶パネルの表示は、無音のまま説明文に切り替わる。
数ページに分かれていた説明は、以下の通りである。
<ハコとは>
ウルフアイランドの各地に設置されている、被験者用のアイテムボックスです。
この中のアイテムを活用し、危機的状況を切り抜けて下さい。
- 14 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:36:55.25
<ハコの種類について>
ハコには黒、赤、銀の三種類があり、後述したものほどレアアイテムが入っています。
以下にそれぞれの特徴を記します。
黒の箱:個数256個。開封条件無し。ハコについての説明が聞けます。
赤の箱:個数16個。開封条件有り。全体のハコの開封状況がわかります。
銀の箱:個数4個。開封条件有り。
銀の箱については、他のハコと少しシステムが違うので、注意して下さい。
これからするハコについての説明は、全て黒の箱と、赤の箱についてとなります。
- 15 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:38:45.42
<ハコの中のアイテムについて(銀の箱は除く)>
ハコには「foods」、「weapon」、「information」の三種類のアイテムが入っています。
「foods」を選択し、液晶パネル上に指を置いて生体認証を済ますと、食べ物と水が手に入ります。
「weapon」と「information」を選ぶと、再び三つの選択肢が現れます。
その中から一つを選択し、同様にして生体認証を済ますと、選んだアイテムが手に入ります。
「weapon」は武器、「information」は情報に関するアイテムです。
取り出せるアイテムは、一つのハコにつき一つまでです。
最終決定をするまで、RETURNボタンで戻ることが出来るので、吟味して選んで下さい。
- 18 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:41:26.98
<アイテムの最大保持数について(銀の箱は除く)>
物にしろ、情報にしろ、アイテムには最大保持数があります。
同じ色のハコのアイテムはリンクされていて、誰がどのアイテムを持っていったか記録されています。
例えばAというアイテムが黒の箱に入っていて、そのアイテムの最大保持数を三個とします。
黒の箱からAを三個取りだした瞬間、他の黒の箱に入っているAは取り出し不可となります。
ただしAを取りだした被験者が行動不能になった場合。
もしくはそのA自体が使用不能になった場合、その分だけリセットされ、再び取りだし可能となります。
- 21 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:43:09.08
<つづき>
また黒の箱と赤の箱のアイテムは、リンクされていません。
黒の箱と赤の箱で共通のアイテムがあった場合、それらの保持数は独立したものとなっています。
最大保持数は各アイテムの右横に表示されます。
A 0/3
この場合、Aというアイテムは誰も取りだしていないという意味です。
A 3/3
この場合だと、Aのアイテム名は赤く表示され、取り出し不可という意味となります。
- 24 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:45:02.63
<ヒントアイテムについて(銀の箱は除く)>
「information」で選べるアイテムに、「ヒント」というものがあります。
実験に関してのヒントを得られるアイテムですが、手に入れるには制約があります。
ヒントAは実験開始から6時間、Bは12時間、Cは24時間、Dは48時間経過してからでしか選択出来ません。
選択可能になった後は、黒と赤、全てのハコで選択出来るようになります。
一つのアイテムと見なされるので、ヒントアイテムを選択した場合他のアイテムは取れません。
ただし他のアイテムと違い、最大保持数の制限が無いので、未開封のハコの数だけ見られます。
- 25 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:46:54.14
そこまで表示した後、YESボタンを押すと、パネルの画面が暗転した。
説明が終了したようである。
画面が戻ると、先ほどの説明にあった、三種類の選択肢が現れた。
その下に、【パネルをタッチし、選択して下さい】という表示がついている。
('A`)「……何か、ゲームみたいっすね」
じっとパネルを睨み付け、何か考え込んでいるブーンに、ドクオが声をかけた。
(メ`ωメ)「そうだ。これはゲームだ。命をかけた、最低のロールプレイングだ」
まるで危機感の無いドクオに、ブーンはやや刺々しい口調で返した。
- 27 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:48:41.76
ドクオは失言に気付き、慌てて話題を変える。
(;'A`)「ど、どれを選ぶんすか」
(メ`ωメ)「まずはアイテムを見てからだ」
パネルをタッチし、ブーンは「foods」を選択した。
缶詰が二つと、300mlの水が入ったペットボトルが、絵付きの説明文でパネルに映し出される。
RETURNボタンを押し、最初の画面に戻すと、今度は「weapon」を選択した。
新たな三つの選択肢が、パネルに表示される。
【サバイバルナイフ】 0/14
【ノコギリ】 0/14
【ウォーハンマー】 0/10
- 29 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:50:23.35
(メ`ωメ)「武器に関しては、このハコは外れみたいだな」
再びパネルをタッチし、サバイバルナイフを選択すると、それについての説明文が表示された。
特に気になる説明では無かったので、RETURNボタンを押し、他のアイテムを見てみる。
「weapon」を一通り見終えると、RETURNボタンを押して、再び最初の画面に戻す。
次に「information」を選択し、アイテム一覧を表示させた。
ブーンの目が、微かに見開かれる。
【時計】 0/14
【地図Lv1】 2/14
【探知機】 0/3
- 31 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:53:42.77
(メ`ωメ)「……」
(;'A`)「あ、もうアイテムを手に入れた人がいるみたいっすね」
既にハコを開封した者がいる。
その者たちより、遅れをとったということになる。
しかしそれ以上に、気になるアイテムがあった。
最大保持数がたった三個しかない、探知機である。
ブーンは素早くパネルをタッチし、探知機を選択した。
- 32 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:55:01.84
【探知機】 0/3
他の被験者たちの、大まかな位置がわかります。
(メ`ωメ)「……当たりだ」
短い説明文であるが、このアイテムが如何に優れているか、すぐに理解することが出来た。
しかしとりあえずは、他のアイテムの説明も見ることにする。
地図Lv1とは、黒の箱の位置が記されている地図らしい。
被験者の数だけ用意されていることから、標準アイテムとして手に入れるものだとわかる。
時計はただの腕時計で、最大保持数が多いことからも、さして意味のあるアイテムでは無さそうだった。
RETURNボタンを押し、再び探知機を選択する。
- 34 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:56:36.29
(メ`ωメ)「これを選ぶぞ。いいな?」
(;'A`)「あ、はい。俺もそれがいいかなって……」
ドクオが言い終わらない内に、ブーンはパネルをタッチし、生体認証を済ませた。
パネルが暗転し、何も見えなくなると、箱の中から何かが動き出した音がした。
中でアイテムが移動している音である。
十秒ほど音が続いた後、箱の上部がゆっくりとスライドされ、選んだ探知機が姿を現した。
箱の底部分がせり上がっており、中心に探知機だけが置かれている。
その下に、選ばなかったアイテムが入っているのだろう。
- 35 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:57:46.25
(メ`ωメ)「これでかなり有利になる。近づくことも、逃げることも可能だ」
('A`)「他の人と合流するんですか?」
(メ`ωメ)「……それは地図を手に入れてから考えよう」
探知機は小型のコンピュータで、電子辞書程度の大きさだった。
電源ボタンを含めた、三つのボタンがついているだけのシンプルな作りである。
昔の携帯ゲーム機に似ていると、ブーンは思った。
箱の中からそれを取り出すと、箱の蓋は自動的に元の位置に戻ってきた。
蓋が完全に閉まると、暗転したパネルに光が戻ってくる。
- 36 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 00:59:27.31
パネルには【探知機】とだけ表示されている。
ブーンがタッチしても、ボタンを押しても、何も反応しなくなっていた。
(メ`ωメ)「選んだアイテムが、他の被験者にわかるようになっているんだな。
例え選択済みのハコでも、情報は得られる訳だ」
('A`)「ああ、なるほど」
探知機の電源をつけると、緑色の液晶パネルに二つの光が灯った。
中心に一つと、そのすぐ傍にもう一つあることから、ブーンとドクオのことだとわかる。
- 39 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:01:31.36
パネル上で、縦向きと横向きの二本の軸が、中心で交差している。
縦の軸の上部に”NORTH”とあり、パネル上の東西南北がわかるようになっていた。
ブーンがボタンをいじくると、二つの光が接近し、中心で合わさった。
それと同時に、画面の外からぽつぽつと光が移動してくる。
二つのボタンは、探知機の倍率を操作するものであった。
('A`)「近くに、誰か他の人とか……」
(メ`ωメ)「少なくとも五百メートル四方には誰もいないな」
バッテリがいつまで持つか心配なので、ブーンは探知機の電源を落とした。
探知機の後ろについている、小さなベルトを、自分のズボンのベルトに巻き付け、固定する。
- 40 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:02:24.13
ブーンは車の後部に背中を預け、ジーンズからセブンスターを取りだし、火をつけた。
白い煙が、傷だらけの顔の前で広がり、ブーンはうまそうに目を細める。
ドクオは地べたに座り込み、手を後ろについて、ぼんやりとガレージの天井を見上げた。
(メ`ωメ)「ドクオ」
火のついたタバコを持ったまま、ブーンはドクオに声をかけた。
話しておくべきことがあった。
まだハコの恐ろしさに、全く気がついていないドクオの為に。
('A`)「なんすか?」
(メ`ωメ)「何故武器が用意されていると思う?」
- 42 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:04:27.82
('A`)「そりゃあ……身を守る為に……」
(メ`ωメ)「何から? 誰から?」
(;'A`)「……」
(メ`ωメ)「いいかドクオ。俺は今までの経験から、必ず仲間割れが起こることを知っている。
つまり他の被験者たちと、何らかの場面で敵対するということだ。
その際、武器を持っているか、情報を持っているかが勝ちを左右する」
(゚A゚)「こ、殺し合うって事っすか!」
(メ`ωメ)「今はまだ何とも言えない。
だが武器というアイテムが用意されている以上、戦いは”必然”ということだ。
いいか、”必然”だ。人体実験は、用意された”必然”を見つける事が鍵になる」
(;'A`)「用意された”必然”……?」
- 45 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:06:30.56
(メ`ωメ)「奴らは――観察者たちは、俺たちに最低限の命令しかしない。
しかし必ず何処かで、ヒントを与えているんだ。
……そもそもこのハコのシステムは、奪い合いを示唆している。
最大保持数に達したアイテムは、他の被験者から奪うしかない。
例えば、そのアイテムが実験の終了条件に関わるアイテムなら、どうする?」
(;'A`)「……でも、協力すれば、何とかなるんじゃ……」
(メ`ωメ)「無駄だな。俺たちはいつか争い、奪い合い、殺し合う。
”必然”的に、そうならざるを得なくなるんだ。
他の被験者より早く、その”必然”を見つけ、対処するしかない」
(;'A`)「そんな……! じゃ、じゃあブーンさんは、今までどうやって実験を……」
そこまで言って、ドクオははっと息を呑んだ。
- 50 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:10:09.90
(メ`ωメ)「……」
タバコの火を靴の裏でもみ消し、ブーンは車から背中を離した。
ベルトにくくりつけておいた探知機を手に持ち、電源を入れた。
倍率を操作し、近くに人がいないことを確認すると、早々に電源を落とす。
ドクオはまだ、座ったままである。
(メ`ωメ)「早く地図を手に入れたい。ここを出て、辺りを探索するぞ」
(;'A`)「……はい」
ドクオは立ち上がり、ズボンについた砂を手で払った。
俯いた表情からは、疑惑の感情が色濃く表れていた。
- 52 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:11:39.99
(;'A`)(こいつの話が本当なら……殺したんだ。こいつ、人を殺したことがあるんだ……!)
成り行きで、一緒に行動することになってしまった事を、ドクオは心から悔やんだ。
命を助けてもらった恩人でもあり、ブーンに対し何も警戒心は無かった。
先ほど話した、実験のシステムについての説明も、ドクオを助ける為だと言える。
しかしそれが本当なら、実験を生き延びるには、戦い――場合によっては、殺す必要が出てくる。
十四回、実験から生還したブーンが、人を殺していないはずは無い。
ドクオはそう考え、そしてそれは、間違ってはいなかった。
- 53 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:12:42.77
(メ`ωメ)「早く来い」
(;'A`)「……今行きます」
体の震えを抑え、ガレージの外で待っているブーンの元へ、とぼとぼと歩き出す。
ドクオの頭の中で、思考がぐるぐると堂々巡りを繰り返していた。
果たしてこの男を信用していいのか。
今のドクオに、その答えは出せなかった。
- 55 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:14:29.66
――08時21分 オーシャン埠頭・第二倉庫――
ウルフアイランドで、船を止める場所は二つある。
一つは、客船専用のサンタマリアポート。
そしてもう一つが、貨物船専用のオーシャン埠頭である。
オーシャン埠頭は、サンタマリアポートより大きいが、建物が密集していて窮屈な感じがする。
荷物の乗降の際に使用するクレーンや、大型の発電装置等が、今では鉄くずと化していた。
そのオーシャン埠頭の中に立ち並ぶ、巨大な倉庫の一つに、彼らはいた。
電気がつかないので、窓から差し込む明かりだけで、中を探索している。
(=゚ω゚)ノ「何かあるっすか?」
- 58 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:16:15.05
中身のよくわからない、段ボールの山の間で、イーヨウが声を張り上げる。
高い天井に、イーヨウの声がこだました。
( ゚д゚)「いや、何も無い」
(=゚ω゚)ノ「はあ……」
ミルナの返事を聞いて、イーヨウは聞こえないように、小さく舌打ちをした。
飛行機から飛び降りた後、、彼らは偶然オーシャン埠頭の近くで出会った。
イーヨウは本能的に警戒したが、ミルナがあまりにも無防備に近づいてくるので、警戒心が解け、意気投合したという訳だ。
元々二人はよく似ている部分がある。
例えば学生の頃不良だった事や、やや短絡的な思考で行動するところ、等である。
- 60 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:17:53.19
共に行動することを誓った後、ミルナの提案で港を探索することとなった。
ミルナいわく、「島から脱出すれば良いんだろ? じゃあ港に行けばいい」だそうだ。
行くあてもないイーヨウは、ミルナの提案に素直に従った。
しかし小舟一隻すら無く、閑散とした港は探索する場所もあまり無かった。
唯一何かありそうな倉庫の中を、一つずつしらみつぶしに探すことになったのだ。
(=゚ω゚)ノ「あれ? 何か変なもんあるっすよ」
四つある倉庫の、二番目を探索している最中に、イーヨウは黒の箱を見つけた。
ミルナを呼び、二人でハコの説明を聞く。
イーヨウは割と理解が早く、すらすらと読んでいった。
しかしミルナが逐一意味を聞き返してくるので、説明を聞き終えるまで十分近くかかった。
- 63 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:19:19.32
( ゚д゚)「で、何を取る?」
(=゚ω゚)ノ「あー。とりあえず何があるか見ましょうよ」
( ゚д゚)「そうだな。ウェアポン? て武器だよな。見てみようぜ」
イーヨウがパネルを操作し、「weapon」を選択する。
現れた選択肢は、次の三つである。
【ノコギリ】 0/14
【ヌンチャク】 0/12
【ククリナイフ】 0/10
- 66 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:21:00.06
(=゚ω゚)ノ「……なんか微妙っすね。ピストルとかあればいいのに」
( *゚д゚)「おい、ククリナイフって聞いたことあるぞ」
(=゚ω゚)ノ「何すかそれ?」
( *゚д゚)「知らねえ。何かのゲームで見たことある。これにしようぜ」
(=;゚ω゚)ノ「あ、ちょっと!」
ミルナは勝手にククリナイフを選択し、生体認証を始めた。
慌てて止めに入ったが、既に認証が済んでしまったらしく、箱から機械音が聞こえ始める。
- 69 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:22:31.24
( ゚д゚)「いいじゃねえか。食べ物とかより、武器があった方がいいだろ。
それに箱っていっぱいあるじゃん。またすぐ見つかるって」
(=;゚ω゚)ノ「……」
数秒後、箱の蓋がスライドを始め、刃が湾曲したナイフが姿を現した。
ミルナは意気揚々と手に取り、嬉しそうな顔でまじまじと見つめる。
( *゚д゚)「すげえ……かっけえなあコレ」
(= ω )ノ「……」
イーヨウは恨めしそうな目で、ミルナを睨んでいる。
- 71 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:24:00.39
彼は飛行機で目を覚ました時から、体に妙な違和感を覚えていた。
気持ちが高ぶっては、すぐに収まる。
体の手足が、時折むずがゆくなるような感覚に陥ったり。
はたまた頭を掻きむしりたくなるような衝動にかられたり、等である。
最も困っていたのは、空腹のことだった。
機内で食べた栄養食は、瞬く間に消化してしまい、涙が出るほど腹が減っていた。
他の者を見ると、皆平気な顔をしているので、自分も我慢していた。
しかしそれももう限界に近づいている。
このまま何も食べずにいたら、気が狂ってしまいそうな程、彼は空腹だった。
彼ハ、空腹だっタのだ。
- 74 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:25:32.76
(=゚ω゚)ノ「……街に行きましょうよ。何か食い物があるかも……。腹が減って、倒れそうっす」
( ゚д゚)「ああ? 俺より若いだろ。だらしねえな。まあいいけどよ」
(=゚ω゚)ノ「今度……今度ハコを見つけたら、食べ物を選びましょぅ……」
( ゚д゚)「はいはい。わかったよ」
ククリナイフを得意げにちらつかせながら、気のない返事でミルナは答える。
倉庫の探索は中止し、彼らはオーシャン埠頭を出ることにした。
- 79 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:28:46.14
――08時51分 バインウッド・ビリヤード場――
バインウッドは、近くにマーケットや、ドラッグストアがある通りである。
その交差点の一角に、小さなビリヤード場があった。
内装をわざと古くし、落ち着いた雰囲気を出している。
カウンターがあり、酒の飲めるバーとしても人気があった店だ。
今では割れたグラスと、ばらばらに散らばったハウスキューのせいで、その雰囲気も台無しである。
( ・∀・)「……」
しかし、黒の箱を求めてやってきたモララーにとって、店の雰囲気はどうでも良かった。
彼はつい先ほど、このビリヤード場で黒の箱を見つけ出し、アイテムを手に入れたところである。
- 81 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:30:03.96
手に入れたアイテムを、拾ったリュックサックに入れると、代わりに地図を取りだした。
膝の上に広げて、ビリヤード場の上についていた黒い点に、拾ったペンで×印をつける。
黒の箱の場所が書かれている地図を手に入れてから、彼はずっと箱の探索をし続けていた。
箱が室内にある場合、何か使えそうなものが無いか、部屋を物色することも怠らなかった。
( ・∀・)(やはり、ここにも無かった)
その過程で、彼は不可解な”共通点”を見つけていた。
最初は偶然かと思っていたが、あまりにもそれが続くので、彼はこれを”必然”だと結論づけた。
それは鏡だった。
どの部屋にも、トイレにも、鏡が無かったのだ。
- 84 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:31:25.55
最初は鏡が外されていることに気がつかなかった。
そこら中にガラスの破片が散らばっているので、鏡が無いことが不自然では無かったのだ。
モララーの類い希な観察眼と、今までの経験が功を奏した結果である。
( ・∀・)(やはり意図的に取り外されている。何かのヒント、もしくは実験の妨げになるから外したんだ。
いつか、誰かが気がつく可能性も、奴らはもちろん考慮しているだろう。
だがおそらく、この時点でこれに気付くのは、奴らにとっても予想外のはず……)
カチャ カチャ
手の中で弄んでいるオイルライターが、小気味よい開閉音を響かせた。
彼が何か考える時の癖である。
- 86 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:33:09.14
カチャ カチャ
( ・∀・)(鏡があると、何かまずいんだ。自分の姿を見られないようにしたのか。
だが飛行機に乗っていた時点では、他の奴らに変化は無かった。
これからの過程のどこかで、鏡が必要になる場面が出てくるのか。
ガラス戸があれば、ある程度は鏡の役割をしてくれる。
自分の姿を鮮明に見られる鏡だからこそ、外されていたとしたら……。
いや待て、だったら多人数で行動していれば、鏡なんて無くても……)
カチャ カチャ カチャ カチャ
いつの間にか、タバコは根本まで灰になっていた。
まだ焦る必要は無いと考え、鏡の事は後回しにし、モララーは再び地図に目を落とす。
今はアイテムを回収することが最優先である。
彼の優秀な頭脳はそう結論した。
- 89 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:34:22.22
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- 90 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/27(日) 01:35:03.14
08時58分。
被験者07ハインが黒の箱に接触。
それにより、全ての被験者が黒の箱に接触したことになった。
実験はフェイズ2からフェイズ3に移項。
最初の死亡者が出たのは、それからわずか一時間半後のことである。
第四話「ぺるそな」へ続く