2 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:15:59.76 ID:ZOMrQAKt0



飛行機墜落まで、残り時間、29分43秒。



第二話「でっど おあ だいぶ」


3 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:18:04.89 ID:ZOMrQAKt0


从;゚∀从「ど、どういう事ですか? 爆発って?」

(;´・_ゝ・`)「これは嘘の警告なのか?」

|゚ノ;^∀^)「おかしいじゃない! だって、場所は街中だって言ったのに!」

(;'A`)「や、や、やばいっすよ。これやばいって」

川゚д川「どうやら、組織の狙いは私たちの暗殺のようですね」

ミセ;゚ー゚)リ「え? 何? 何よこれ?」

(;´・ω・)「……とにかく、モララー君たちの帰りを待ってから考えましょう」


機内はパニックに陥っていた。
話し合いなど出来る状況ではなく、意見は交錯する。


6 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:20:51.27 ID:ZOMrQAKt0

ただその中で一人だけ、窓の外を見ながら、極めて冷静に状況を分析している者がいた。
その男――ブーン――は、視線を窓に固定しながら、皆に聞こえる声で言った。


(メ`ωメ)「窓の外を見てみろ。ここは既に、街の中らしい」

(;´・ω・)「え?」

|゚ノ;^∀^)「嘘……」


彼らは言われるがまま、機内の両側に散り、窓から下の景色を見下ろした。
先ほどよりも高度が下がっていて、下にあるものをはっきりと見ることが出来た。


7 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:22:58.20 ID:ZOMrQAKt0

それは島だった。
島の上に、建物や森が押し込まれたように凝縮されている。
あれが、今回の舞台となる”街”だったのだ。

周りには海しかなく、その島の不自然さが目立った。
まるでどこかの陸地から街を丸々切り取ってきて、海の上に貼り付けたような島である。


(;´・ω・)「……! そうか、わかった。確かにここは街の中だ」


ショボンに視線が集まった。
他の者は、まだ理解出来ていないようである。


从;゚∀从「ど、どういうことですか?」

(´・ω・`)「あの島は、ウルフ社が買い取り、街を作ったビジネスアイランドなんですよ」


10 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:27:40.21 ID:ZOMrQAKt0

ウルフ社とは、コンピュータ市場に巨大なシェアを持つ、世界有数の企業である。
十数年前、とある無人島を買い取り、そこに支社を建てたのだ。

ビジネスとリゾートを兼ねた、巨大な別荘とも言える。
国に街と認定されたのは数年前で、支社長が街全体を管理していた。


(;´・_ゝ・`)「確か、地震と津波によって、一度崩壊していたはずだが……」

(´・ω・`)「その後、国から街を島ごと、ある大富豪が買い取ったんです」

|゚ノ;^∀^)「ちょっと待って……国から街を買うなんて、そんなこと出来るの?」

(´・ω・`)「出来るんですよ。国と同レベルの金と権力を持つ、”神さま”だったら……」


12 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:31:41.97 ID:ZOMrQAKt0

(´・ω・`)「確か三年前です。荒巻という人物が、この島を買い取った」

(;´・_ゝ・`)「そういえば、週刊誌で読みましたよ。何故かあまり、ニュースにはなりませんでしたね」

从;゚∀从「あの……島のことについてはわかりましたが、どうしてここが街の中なんでしょうか?」

|゚ノ;^∀^)「そうよ。私たちは空を飛んでるのに……」

(´・ω・`)「ウルフ社の社長は、飛行機嫌いなんです。だからこの辺りの空を買った」

<ヽ`∀´>「空を買えば、飛行機飛んでこない。荒巻、空も一緒に買った。違うか?」

(´・ω・`)「その通りです。正確に言えば、空を含んでいる街を買った、ですが……」


ショボンの説明で、ここが既に街の中だということがわかった。
そして、やはり実験は、既に始まっているのだということも。


13 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:33:17.23 ID:ZOMrQAKt0

ミセ;゚−゚)リ「ちょ、ちょっと待って!」


突然ミセリが大声を上げた。
何事かとみんなの視線が集中する。


ミセ;゚ー゚)リ「これって……ドッキリじゃないの?」

(#´・ω・)#^∀^)#・_ゝ・`)「当たり前だ!」

ミセ;゚ー゚)リ「……うそぉ……」


糸の切れた操り人形のように、ミセリはシートに倒れ込んだ。
今の今までドッキリだと思っていたらしく、その顔に生気は無い。


14 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:36:10.33 ID:ZOMrQAKt0

(メ`ωメ)「気をつけろ」


騒ぎにも動じず、ブーンはじっと窓を睨み付けている。
飛行機は、とっくに島を飛び越していた。


(メ`ωメ)「俺の推測が正しければ、この機体はこれから――」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



18 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:41:04.39 ID:ZOMrQAKt0

( ・∀・)「急激に傾くぞ」

( ゚д゚)=゚ω゚)ノ「え?」


コクピットは、もぬけの空だった。
デジタル化された計量器の青い液晶画面に、現在位置や高度、速度が表示されている。

オート操縦になっているらしく、透明人間が動かしているかのように、操縦桿が細かい動きをしていた。


( ゚д゚)「どういうことだ? ここが街の中ってのはわかったけどよ」

( ・∀・)「さっき島を通り越した。あの島が目的地だとすると、飛び降りるしかない」

(=;゚ω゚)ノ「……それで」


22 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:44:48.43 ID:ZOMrQAKt0

( ・∀・)「もう一度島の上を通過する必要があるってことだ」

(;゚д゚)「え? それってつまり……お……うわあああああああ!?」


地面と平行していた機体が、突然下向きに傾いた。
急激なGで体が宙に放り出される。

ミルナとイーヨウはコクピットの中を転げ回り、壁や椅子に頭をぶつけた。
予め予測していたモララーは、椅子にしがみつき、事なきを得た。


(;゚д゚)「何だよ! 何なんだよ!」

(=;゚ω゚)ノ「いてえ! 死ぬ!」

( ・∀・)「気をつけろ。また来るぞ」

(;゚д゚)=;゚ω゚)ノ「何が!?……おおおおおおおおお!?」


23 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:47:06.00 ID:ZOMrQAKt0

今度は横向きに機体が傾き、床と壁の区別がつかなくなった。
ミルナたちはピンボールのように派手に転がり周り、体に無数の傷をつける。

機体の傾きは直らず、そのまま旋回を始めた。


( ・∀・)「もう一度同じ場所を通過するには、ぐるっと回る必要があるんだよ」

(=;゚ω゚)ノ「傾くなら先に言えよ!」

(;゚д゚)「ちくしょう……いてえよ……」

( ・∀・)「ここにいても仕方ない。戻ろうぜ」


モララーはありえない角度をしている機内を、器用に歩いていく。
ミルナたちは這ってついていくしかなかった。


24 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:49:17.55 ID:ZOMrQAKt0


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(;´・_ゝ・`)「くそ! 何だったんだ!?」


客室にいた者たちも、旋回による被害を受けていた。
傾いた機内では、もはや立ってはいられないので、座席に捕まったり、壁によりかかったりしている。

ブーンの言葉に即座に反応したデミタス、ショボン、レモナ、セブンに怪我は無かった。
しかしその他の者たちは、打ち身と擦り傷だらけである。


(*;−;)「おねえちゃんいたぁい……」

|゚ノ;^∀^)「しぃちゃん、大丈夫。大した傷じゃないから、すぐ治るよ」

(*;ー;)「いたいよぉ……」


26 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:52:28.29 ID:ZOMrQAKt0

ミセ#゚ー゚)リ「何よこれ! 意味わかんない! もう帰してよ!」

(;´・ω・)「ひ、飛行機がこんなに傾くなんてありえないはず……!」

(メ`ωメ)「旅客機では無いな。似せて作られた戦闘機のようなものだ」

(;´・ω・)「……なるほど」

(メ`ωメ)「この分だと、約十分後にはまた島の上を通過するだろう。
       それまでに、脱出路を見つける必要がある」

(;´・ω・)(……こいつ……)


ブーンの冷静な言動に、ショボンは疑念を持たざるを得なかった。
まるで、こんなこと日常茶飯事だとでも思っているような素振りだ。


(;´・ω・)(この男も、要注意だな)


27 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:54:40.55 ID:ZOMrQAKt0

ブーンは座席を掴んでいた手を離し、壁際に向かって床を滑り降りた。
壁に足がつくと、体を反転させ、窓から外をのぞき込む。

遠くに見える島が、ゆっくりと横にずれていく様子が見て取れた。
自分の思惑通り、島の周りを旋回しているのだと確認する。


(メ`ωメ)「時間は無い。早く脱出路を探すぞ」

( ・∀・)「もう見つけたぜ」


声のした方に、モララーの姿があった。
壁に手をつき、急角度で傾いている床に、平然と立っている。

その後ろでミルナとイーヨウが、床に這いつくばっていた。
モララーと違い、顔や手に生傷がついている。


32 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 18:58:42.36 ID:ZOMrQAKt0

( ・∀・)「さっき下に下りる階段を見つけた。そこで……まあ見た方が早い。
      さっさとついてこい」


返事をする暇も与えず、モララーはブーンたちに背中を向ける。
床で四つんばいになっているミルナたちの上を通り、奥に歩いていってしまった。


(メ`ωメ)「俺たちもいこう」

(゚A゚)「そう言われても……」

(メ`ωメ)「這ってでも来い。時間はあまり無い」


座席に足をひっかけながら、ブーンは器用に移動していく。
他の者たちも、苦心しながら彼らについていった。


33 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:00:38.84 ID:ZOMrQAKt0

奥に進むと、開け放しているハッチがあった。
そこから下に下りられるようだ。

全員が下の階層に移動するのに、三分以上かかった。
飛行機の傾きは秒単位で変動している為、平衡感覚が取れないせいだ。


(;´・ω・)「……何だ、これは」


部屋の広さは、教室一つ分程度。
電球の光は薄暗く、壁はむき出しの金属板だった。
エンジンが近いのか、うなり声のような音がそこら中から聞こえる。

その部屋の真ん中に、銀色をした、正方形の大きな箱が床に固定されていた。
他には何もなく、一目で被験者の為に用意された物だとわかる。
小さなモニタがついていて、そこにはこう表示されていた。


36 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:03:32.15 ID:ZOMrQAKt0

【開封条件】:被験者全員の指紋認証


(メ`ωメ)「……」

|゚ノ;^∀^)「どういうことですか?」

( ・∀・)「モニタの上に十四個の小型センサがある。そこに指を置けば開くってことだ」


被験者たちは、恐る恐る自分の指をセンサに乗せていく。
一人が指を乗せる度に、箱についているスピーカーからピピピと音が鳴った。

最後の一人が指を乗せると、少し長めの電子音の後、箱の上部の金属板がゆっくりとスライドしていった。
スライドした金属板は自動的に箱の側面に移動していき、側面に完全に張り付くとそこで止まった。


37 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:06:18.42 ID:ZOMrQAKt0

( ゚д゚)「……リュック?」

(メ`ωメ)「違う。パラシュートだ」


中には濃紺色のパラシュートがぎゅうぎゅうに詰まっていた。
大型のリュックサックのようにも見えるが、ベストもついていて、それを羽織ることにより装着出来るようになっている。


(=;゚ω゚)ノ「飛び降りろってことか?」

( ・∀・)「だろうな」


被験者たちの間に、緊張が走る。
脱出と聞いたときから、こうなる予感はしていた。

しかしいざ実物を見せられると、恐怖に腰が引けてしまう。


38 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:08:53.80 ID:ZOMrQAKt0

(;´・ω・)「とりあえず、パラシュートを出しましょう」

从;゚∀从「底の方は、手が届きませんよ」

( ・∀・)「誰か中に入ればいい。そうだな……イーヨウ。お前が入れ」

(=゚ω゚)ノ「? ああ、わかった。でも何で俺なんだ?」

( ・∀・)「チビだからだよ」

(=゚ω゚)ノ「あ?」


体格が小さく、顔も童顔のイーヨウが、途端に凄みを帯びた。
相当気にしていたことらしく、敵意をむき出しにしてモララーを睨み付ける。


41 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:10:21.54 ID:ZOMrQAKt0

その様子が面白いのか、モララーはにやついた顔で笑い始めた。
それが引き金になった。


(#゚ω゚)ノ「何がおかしいんだよてめえ!」


傾いた機内で、イーヨウは飛び跳ねるように殴りかかった。
しかし相手が悪かった。

モララーはイーヨウの拳を避け、腕を取る。
そのまま背負い投げの要領で壁にたたき付けた。
壁にバウンドしたイーヨウが、機内の床を転がる。


(=;゚ω゚)ノ「ご……あ……!」


45 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:14:06.37 ID:ZOMrQAKt0

( ・∀・)「……ハイン」

从;゚∀从「は、はい」

( ・∀・)「お前が入れ」

从;゚∀从「……わかりました」


言われたとおり、ハインは無言でパラシュートを出し始める。
エンジン音に混じり、イーヨウの苦しそうな呼吸が耳についた。


(;´・_ゝ・`)(何なんだこいつは……)

|゚ノ;^∀^)(この人……アブない)

(;゚д゚)「……」

47 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:15:28.16 ID:ZOMrQAKt0

モララーという男に、彼らは恐怖を抱き始めた。

怒らせてはいけない。
近づいてはいけない。
関わってはいけない。

本能が発する警告を、ほとんどの者が感じている。

早くモララーと別れたい。
その願望は、彼らのパラシュート降下の恐怖を上回った。


ミセ;゚ー゚)リ「ほ、本当に、これで飛び降りるの? 無理……絶対無理よ」


ただ一人を除いて。


48 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:16:30.08 ID:ZOMrQAKt0

( ・∀・)「嫌なら死ね。俺は構わない」

ミセ;゚ー゚)リ「……」


ミセリは押し黙ったまま、壁際に離れていった。
反論しようとはしなかった。
モララーが本心でそう言っているのがわかったからである。

モララーはパラシュートを手に取ると、さっそく装着を始めた。


( ・∀・)「おい。つけ方がわからない奴は、俺がやるのを見ておけよ。
      パラシュートの開き方も教えてやる」


49 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:17:28.24 ID:ZOMrQAKt0

パラシュートなど、普通に生活していたら見る機会すら無い。
彼らは黙って、モララーがパラシュートをつけるのを見ていた。

その中でセブンだけは、経験があるのか、パラシュートに手を伸ばした。
パラシュート装着の実演をしているモララーのことなど、全く見ていなかった。


(´・ω・`)(……ん?)


その時ショボンは、一つの異変について気がつき始めていた。
最初はただの勘だった。
それを確かめる為、モララーの説明を聞きながら、そっと確認した。
すると、その最悪の予感は的中していたのだ。


51 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:18:03.50 ID:ZOMrQAKt0

はやる気持ちを抑え、もう一度だけ、しっかりと確認する。


(;´・ω・)(……これは……)


やはり、結果は変わらなかった。
手足の先から、虫がはいずり回ってくるような焦燥を覚える。
何度確認しても、”それ”は間違いではなかった。

”それ”を口で言おうとして、はっと息を呑む。
今”それ”を言ってしまえば、自分も危険にさらされてしまう。

自分だけのアドバンテージとして、ここは隠しておくべきだ。
そう結論した。

55 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:21:17.13 ID:ZOMrQAKt0

(〃`_>゚)「降下場所は見つけたのか? 既に傾きはほぼ収まった。
       もうすぐ島の上を通過するぞ」


聞き慣れない声は、セブンのものだった。
彼の言うとおり、飛行機の傾きはほとんど元に戻っていて、再び地面と平行になりつつあった。


( ・∀・)「部屋の隅にハッチがある。まだ開けていないが、おそらくそこからだろう」

(〃`_>゚)「何処だ」

( ・∀・)「そこだよ。解りづらいが、小さな取っ手もある」


モララーが指さした先に、畳三畳分ほどのハッチがあった。
床と同化していて、非常に見つけにくい。


60 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:22:57.25 ID:ZOMrQAKt0

( ・∀・)「島が近づいたら俺は行くぜ。生きたい奴だけついてこいよ」


モララーはハッチに近づき、取っ手を指で引き上げた。

ゴオオオオオ――。

部屋に風が吹き荒れ、爆音が響いた。
ハッチを完全に開けきると、進行方向のずっと先に、先ほど通過した島が見えた。


( ・∀・)「よく聞け! 島の上空に到達するのは今から二十秒後くらいだ!
      コクピットのモニタでわかったが、さっき島の上で極端に減速した!
      原理は全くわからんが、少しの時間なら自動車と同じ速度で飛行できるらしい!
      降下の猶予は四分程度! その間に飛べばいい! わかったな!」


61 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:24:20.88 ID:ZOMrQAKt0

開けはなったハッチから、爆風のような風が吹き荒れる中、モララーが叫んだ。
先ほど遠くに見えた島は、すぐ傍にまで迫っていた。


(´・ω・`)(……)


ショボンは、何故モララーがこうも親切に、自分たちに情報を教えるのか、不可解でたまらなかった。
疑り深いショボンは、何か裏があると考える。
例えば、嘘の情報で混乱を誘っている、など。

実際のところ、この説明は的確で、嘘偽りは無い。
ただしモララーには別の理由があって、このような説明をしたのだった。


(´・ω・`)「モララーくん。君は……」

( ・∀・)「着いたぜ! じゃあな!」


63 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:26:12.51 ID:ZOMrQAKt0

それが機内で交わした、モララーとの最後の会話となった。
次の瞬間には、モララーの体はハッチの外に飛び出していた。

ショボンがハッチに近づくと、既に豆粒のようになっているモララーが見えた。
その先に、目的地である島が待ちかまえている。


(´・ω・`)「……」


ショボンはそっとパラシュートを手に取ると、横目で他の者の様子をうかがった。
まだ数人しかパラシュートを手にしていない。

どうやら、まだ”あれ”には気がついていない様子である。


65 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:27:48.06 ID:ZOMrQAKt0

(´・ω・`)(脱出するタイミングは、今しかない)


ショボンは徐々に、普段の冷静さを取り戻していた。

これは狂気のゼロサムゲーム。
騙し、取り入り、奪い、殺す。

限られた情報、限られた資源の中で、如何に有利に事を運べるか。
それが実験を攻略する為の鍵になる。

開始わずか十数分で、ショボンは実験の本質を悟った。
理解は恐怖を和らげ、彼に自信を与える。


(´・ω・`)「皆さん! 必ず生き残りましょう!」


68 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:29:03.80 ID:ZOMrQAKt0

先ほど習ったパラシュートのつけ方通りに、手早く装着を済ませてから、彼はそう叫んだ。
モララーの言うことが本当であるならば、まだ少しだけ時間に余裕がある。
しかし他の者が”あれ”に気がついていないうちに、脱出する必要があった。


(;´・_ゝ・`)「行くのか!?」

(´・ω・`)「ええ。ではまた」


覚悟ではなく、計算。
今飛び降りることが、生きることに繋がる。
思考がそう結論した時、恐怖は完全に消え、ショボンは何の躊躇もなく、ハッチから飛び出した。

モララーに続き、ショボンが飛び降りた事で、他の者たちにも火がついた。


70 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:30:29.12 ID:ZOMrQAKt0

(;゚д゚)「やべえ! 早く行かないと!」

(=;゚ω゚)ノ「くそ……俺も行くぞ……」

(;´・_ゝ・`)「……迷っている暇は無いか」

(〃`_>゚)「……」

<ヽ`∀´>「……不得不干(……やるしかないね)」


ショボンたちの後を追い、続々と飛び込んでいく者たち。
残された者たちも、覚悟が出来たのか、はたまた諦めがついたのか。
パラシュートを手に取り、装着し始めた。


川д川「飛ぶ……お空を……ふふふふふ……飛ぶわあ……」


72 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:33:05.11 ID:ZOMrQAKt0

从;゚∀从「うううう……」

|゚ノ;^∀^)「しぃちゃん。重いだろうけど、これを着て頂戴」

(*;゚ー゚)「うん……わかった」

ミセ;゚ー゚)リ「ありえない……ありえないわ……」

川゚д川「あははは! ひゃははははははははははははははは!」


貞子はパラシュートを身につけると、狂ったように笑いながら落ちていった。
頭から飛び込んでいってしまったが、彼女を心配する者は誰もいなかった。


74 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:35:22.39 ID:ZOMrQAKt0

从;゚∀从「そ、それでは、自分も行きます!」

从 ∀从「ひぎゃああ――!」


それに続いたのはハインで、断末魔のような絶叫を一瞬だけ響かせ、島に向かって落ちていった。
残り二分ほどが、タイムリミットである。
残っているのは、ブーン、レモナ、ドクオ、ミセリ、しぃだけとなった。


(;'A`)「……?」

|゚ノ;^∀^)「さあ行くわよ。しぃちゃん」

(*;゚ー゚)「やだ……やだ……怖い……」


76 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:37:08.75 ID:ZOMrQAKt0

|゚ノ;^∀^)「私が抱いててあげるから。一緒に行こう?」

(*;゚ー゚)「でも……」

(;゚A゚)「あれ? え? 何で? え?」

ミセ;゚ー゚)リ「ありえない……何よこれ……ありえない……」

(メ`ωメ)「おい。パラシュートを着けたら早く飛べ。もうすぐ島を飛び越すぞ。
      時間的に考えると、チャンスはもう一度あるが……」

(;A;)「無い! 無い無い無い無い!!!」


涙混じりの悲痛な叫び声が、ブーンの言葉を遮った。


82 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:39:38.16 ID:ZOMrQAKt0

(メ`ωメ)「……どうした」


ブーンが話しかけても、ドクオは犬のようにうずくまり、ただ泣き続けているだけであった。
掻きむしった頭皮には、うっすら血が滲んでいる。


(メ`ωメ)「ドクオ! どうした!」

(゚A゚)「……」


ドクオが顔を上げると、その表情に、押し寄せる焦燥と絶望が、色濃く表れていた。
血の気の無い顔に、小刻みに震わせている手足が、彼の恐怖を物語っている。


(;A;)「パラシュート……無い」

ミセ;゚ー゚)リノ;^∀^)「え?」


83 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:42:15.84 ID:ZOMrQAKt0

最初、何を言っているのかわからなかった。
意味を理解してから、その恐ろしさに気がつき、彼女たちは言葉を失う。


(メ`ωメ)「箱の中は見たか?」

(;A;)「見た! でも無いんだよ! 何処にも!!! 何処にも!!!!!」

|゚ノ;^∀^)「……もう遅いみたい」


ブーンたちを乗せた飛行機は、たったいま島の上空を通り過ぎた。
島がゆっくりと離れていく様子を、レモナは苦虫を噛みつぶした顔で見続けていた。

レモナがハッチを閉めると、部屋に吹き荒れていた風が収まった。
ミセリは困った顔で、ブーンとドクオを交互に見渡している。


87 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:44:26.43 ID:ZOMrQAKt0

(メ`ωメ)「次がラストチャンスだ。それまでに、飛ぶ準備をしておけ」

(;'A`)「……俺のは……あるんすか……? どっかに、パラシュート……」

(メ`ωメ)「……」

(;'A`)「……はは……ははは……死んだ。俺、死んだ……はははは……」


放心状態になったドクオを見て、他の被験者たちは声をかけることが出来なかった。

一番最初に気がついたのは、モララーであった。
彼はハインが箱からパラシュートを取りだした時点で、一つ少ないことに気がついていたのだ。


91 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:46:43.51 ID:ZOMrQAKt0

――おい。つけ方がわからない奴は、俺がやるのを見ておけよ。
――パラシュートの開き方も教えてやる


モララーが急にパラシュートについて説明し出したのは、自分に注意を向ける為だった。
有無も言わさず説明を始めて、パラシュートを手に取る暇を与えないようにしていたのだ。

場の空気を巧みに操作し、一つ足りないことに気がつかせるのを遅らせた。
ただでさえ混乱していたこの状況で、思考能力が落ちた被験者たちはそれに気がつかなかった。


93 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:48:29.31 ID:ZOMrQAKt0

――降下場所は見つけたのか? 既に傾きはほぼ収まった。
――もうすぐ島の上を通過するぞ


セブンも、モララーとほぼ同時に気がついていた。
彼はモララーの思惑も見抜き、自分が喋ることで他の者たちをただの傍観者にしたのだ。

既にハッチの存在に気がついた上で、モララーに質問をする。
それにより、モララーの説明は極めてスムーズに次の段階に進み、他の被験者たちはパラシュートを取るタイミングを失った。


94 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:50:11.17 ID:ZOMrQAKt0

もちろん彼らは共謀した訳ではない。
ただ彼らは、人体実験において、情報を操作することが如何に重要になるか、知っているということだ。

パラシュートを巡る争いが起これば、それに勝つことは、この二人にとっては容易い。
それをしないというのは、すなわち二人が純粋にゲームを楽しんでいるということである。


(;'A`)「……」

|゚ノ;^∀^)「ドクオ君……他にもパラシュートはあるかもしれないから、一緒に探しに……」

(メ`ωメ)「いや、無いだろう」

ミセ;゚ー゚)リ「どうしてよ」


95 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:51:11.79 ID:ZOMrQAKt0

(メ`ωメ)「箱を開けるには全員の指紋認証が必要だった。
      一度全員をここに集めておいて、一つ無いことでパニックを起こそうとしたんだ」

|゚ノ;^∀^)「でも、それで無いと決まった訳じゃ……ないでしょう?」

(メ`ωメ)「無いな。これはそういう実験だ」

(;A;)「……ひひ……死んだ……もう駄目だ……ひひひ……」


高度三千メートルに、逃げ場はない。
確実に迫る死の恐怖が、ドクオを錯乱状態にした。


96 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:53:20.16 ID:ZOMrQAKt0

ミセ;゚ー゚)リ「あんた……まるで前にも実験に参加してたみたいじゃない」

(メ`ωメ)「……」

|゚ノ;^∀^)「……」

ミセ;゚ー゚)リ「あんただけじゃない。あのモララーって奴だってそうよ。何者なの? あんたたち」


モララーやブーンの言動を気になっていたのは、ミセリも一緒だった。
顔の傷をそっとなぞりながら、ブーンはあさっての方向を見ながら言う。


(メ`ωメ)「……傾くぞ」

ミセ;゚ー゚)リノ;^∀^)「え?」


98 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:55:58.65 ID:ZOMrQAKt0

(゚A゚)「おわあああああああああ!!!」


旋回の際、急激に傾くということを忘れていたミセリたちは、床のうえを転げ回った。
すぐにやってきた二度目の傾きにも、バランスを崩して頭をぶつける。


(メ`ωメ)「もう一度旋回している。やはりチャンスは二度あるみたいだな」

(*;ー;)「いたい……もう帰るよぉ……」

(メ`ωメ)「泣くな。泣いてどうにかなるもんじゃない」

(*;ー;)「う……」


ブーンはジーンズのポケットを探り、セブンスターを取りだした。
革張りのオイルライターで火をつけ、白い煙をはき出す。


99 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 19:59:14.43 ID:ZOMrQAKt0

(メ`ωメ)「俺は今まで、十四回実験に参加している」

|゚ノ;^∀^)「え……?」

ミセ;゚ー゚)リ「……はあ?」

(メ`ωメ)「この実験は、十五回目ということだ」


信じられない事だった。
実験の生還率などは、公式には発表されていない。
しかし様々なメディアが調べた結果によると、約20%を切るか切らないかだと言われている。

十人参加すれば八人が死ぬような実験に、十四回参加し生還した。
これが本当ならば、あまりにも――恐ろしいことである。


102 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:02:43.73 ID:ZOMrQAKt0

|゚ノ;^∀^)「どうしてそんな……」

「きゃああああ!」


不意に聞こえた悲鳴は、しぃのものだった。


(*;゚ー゚)「やめて! やめて!」

(;゚A゚)「うるせえ! 脱げ! 俺のパラシュートだ!」


ドクオは殺気立った目つきで、しぃの着ているベストを脱がそうとしていた。


107 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:06:11.71 ID:ZOMrQAKt0

|゚ノ#^∀^)「やめなさい!」


レモナは怒りに我を忘れ、二人の元に走り寄ると、ドクオを勢いよく押し飛ばした。
壁に向かって吹き飛んだドクオは、盛大に頭を打ち付ける。


(゚A゚)「ぐわ!」

|゚ノ#^∀^)「何やってんのよ!」

(;゚A゚)「うるせえ! うるせえうるせえ! 俺が生き残るんだ!」

|゚ノ#^∀^)「気持ちはわかるわ! でもそんなことして恥ずかしくないの!?」

(;゚A゚)「黙れ! だったらお前のをよこせえええ!!!」


110 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:09:26.16 ID:ZOMrQAKt0

レモナに飛びかかったドクオだったが、さらりと躱されると、もんどり打ってこけてしまった。
斜めになった床の上を、無様に転がるドクオを見て、レモナはいたたまれない気持ちになる。


(;A;)「あああ……ああぁぁああ……死にたくない……死にたくない……」

|゚ノ;^∀^)「……ドクオ君……」

(メ`ωメ)「……」


時間は刻々と過ぎ去っていく。
彼らは無言のまま、次の降下時間を待った。

時折聞こえるドクオの呟きが、呪いの呪文のように響き、彼らの耳に届く。
「ちくしょう」「死にたくない」「もう駄目だ」。
痛々しくて、レモナは途中から耳を塞いだ。


116 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:13:33.82 ID:ZOMrQAKt0

(メ`ωメ)「そろそろだ」


床がほぼ平行になった時、ブーンは持っていたタバコを足で踏み消し、立ち上がった。
ハッチに近づき、取っ手を一気に引き上げ、外を確認する。
思った通り、島はすぐそこまで迫っていた。


(メ`ωメ)「パラシュートは十五秒以上経ってから開け。風に流されるかもしれん」

|゚ノ;^∀^)「はい……」

ミセ;゚ー゚)リ「……」


118 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:14:50.39 ID:ZOMrQAKt0

(;A;)「……くそったれ……」


この十数分間で、ドクオは憔悴しきっていた。
立つ気力も無いらしく、壁にもたれて、焦点の合っていない目で、ぼんやり虚空を見上げている。


(メ`ωメ)「よし、今だ。行け」

|゚ノ;^∀^)「しぃちゃん。行くよ」

(*;゚ー゚)「……うん」


二人はお互いを抱きかかえるように落ちていった。
遙か下方で、パラシュートの真っ赤な円が二つ出来上がるのを確認すると、ブーンはほっとため息をつく。


122 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:16:47.52 ID:ZOMrQAKt0

(メ`ωメ)「次はお前だ」

ミセ;゚ー゚)リ「むむむ無理! やっぱ無理! 絶対無理!」

(メ`ωメ)「いいから行け。ジェットコースターよりも恐怖は感じないはずだ」

ミセ;゚ー゚)リ「どっちも無理よ! 芸人じゃあるまいし、スカイダイビングなんて出来ないわ!」


この土壇場で、ミセリは怖じ気づいてしまった。
しゃがみこんで頭を抱え込み、かちかちと歯を震わせている。


ミセ;゚ー゚)リ「わ、わ、私はアイドルよ。歌って、踊るだけのアイドルなの」

(メ`ωメ)「……」

ミセ;゚ー゚)リ「こんなの無理に決まってる……この高さから飛べたら奇跡だわ……」


125 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:18:44.89 ID:ZOMrQAKt0

奇跡。
妙に懐かしい響きだと、ブーンは思った。


(メ`ωメ)「大丈夫だ」

ミセ;゚ー゚)リ「な、何がよ」

(メ`ωメ)「アイドルは奇跡を起こすと、俺は聞いたことがある」

ミセ;゚ー゚)リ「はぁ?」


ブーンはミセリの首根っこを掴み、無理矢理立たせた。
困惑の表情を浮かべるミセリを、ハッチの方へ軽く投げた。


ミセ;゚ー゚)リ「ちょ、ちょっとおおお!」


131 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:20:53.80 ID:ZOMrQAKt0

ハッチの手前で足を踏ん張ろうとするが、バランスが保てず、ゆっくりと体が倒れていった。
外に飛び出る直前、ミセリは鬼のような形相でこう叫んだ。


ミセ;゚ー゚)リ「だったら起こしてやるわよ! 奇跡くらい! 起こ――」


言葉は爆風にかき消され、最後まで聞こえなかった。
ハッチから見下ろす景色に、もう一度赤い円が出来たのは、その十数秒後のことである。

どうやら、奇跡を起こせたらしい。


(メ`ωメ)(さて……ん?)

(゚A゚)「……」


134 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:22:54.97 ID:ZOMrQAKt0

振り返った先に、仁王立ちしているドクオが、じっとブーンを見つめていた。
ブーンが言葉をかける前に、ドクオの方から口を開く。


(;゚A゚)「お、お前のぱ、パラシュートをよこせ!」

(メ`ωメ)「……」

(;゚A゚)「どうだ! お前から奪うんだったらは、恥ずかしくないだろ!」

(メ`ωメ)「そうだな。むしろ勇敢だ」

(;゚A゚)「おおおおおおお!!!」


拳を振り上げて駆け寄ってくるドクオを、ブーンは軽く平手で弾いた。
それでもすぐさま立ち上がり、ブーンのパラシュートに手を伸ばそうとする。


139 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:25:42.46 ID:ZOMrQAKt0

弾いて、倒され、立ち上がり、また弾かれる。
四、五回ほどそれが続くと、もうドクオに立ち上がる気力は無くなっていた。
ドクオは拳を床にたたき付け、赤く泣きはらした目に、再び涙を浮かべる。


(;A;)「ちくしょう! ちくしょう!」

(メ`ωメ)「……ドクオ」

(;A;)「何だよ!」

(メ`ωメ)「何故そこまでして、お前は生きたいんだ」

(゚A゚)「……」


飛行機は、既に島を半分以上通過していた。
死はもう目の前に迫っている。
取り繕う必要は、無かった。


141 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:27:27.23 ID:ZOMrQAKt0

(;゚A゚)「……俺は童貞なんだよ」

(メ`ωメ)「……」

(;゚A゚)「童貞なんだよ! 悪いか! ああ!?
    女の子と付き合ったことないんだよ! キスだってまだだ!
    おっぱいを生で見たいんだよ! 死ねるか! 童貞捨てるまで死ねるか!」

(メ`ωメ)「…………」

(;゚A゚)「下らないって思ってるだろ! 思ってんだろあぁああ!?
    これが俺の夢さ! 俺にはそれが全てだ! は! しょうもねえ!
    あー死んだ! 俺死んだ! 童貞のまま! 死ぬんだよ!
    お前にはわからねえだろ! 童貞の苦しみなんてわからねえだろ!
    笑えよ! 俺はこういう奴だ! 死んで当然だねあー死ぬ死ぬ死ぬ!
    童貞のまま死んだら地獄行きだな間違いないね!
    ああああああああああああああ!!!!!」

(メ`ωメ)「……そうか」


148 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:30:39.23 ID:ZOMrQAKt0

鼻で笑われそうなドクオの夢を、ブーンは真剣に聞いていた。
どれだけ無謀な夢でも、どれだけ単純な夢でも、どれだけ下らない夢でも、彼は決して笑わない。

夢を叶えられず、死んでいったものたちを、彼は何人も見ているから。
夢を叶えられず、死んでいった最愛の人を、彼は今でも忘れていないから。


(;'A`)「……?」


ブーンはドクオの後ろにしゃがみ込み、肩の下から腕を回した。
太ももくらいありそうな豪腕が、ドクオをがっちりと押さえ込む。


154 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:34:13.42 ID:ZOMrQAKt0

そのままブーンが立ち上がると、ドクオは軽く宙に浮いた。
後ろからドクオを持ち上げたまま、ブーンは開きはなったハッチへ歩み寄る。


(;゚A゚)「何するつもりだよ……」

(メ`ωメ)「……」

(;゚A゚)「あんた……まさか……!」


眼前のハッチから、遙か下方に島が見える。
これから何をされるのかを悟り、ドクオはさらに顔を青ざめさせた。


160 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:36:05.14 ID:ZOMrQAKt0

(;゚A゚)「ちょ……待って……待って……!」

(メ`ωメ)「紐はお前が引け。俺は両手が塞がっている」

(;゚A゚)「嘘だろ……嘘だろ!? うわあああ! 待って! 心の準備が!」

(メ`ωメ)「……もし生きて帰れたら、いい女を紹介してやろう」

(*'A`)「え、ほんと?」







飛んだ。


166 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:38:36.29 ID:ZOMrQAKt0

      「!
       あ
       あ
       あ
       あ
       あ
       あ
       あ
       あ
       あ
       あ
       あ
       あ
       あ
       あ
       う」
       (゚A゚)


170 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:39:59.94 ID:ZOMrQAKt0

目も開けられない、強烈な風圧が二人の体を覆った。
パラシュート無しで飛んでいる。
それを考えただけで、ドクオは気を失いそうだった。


(メ`ωメ)「紐を引け!」

(゚A゚)「何!? 何って!?」


171 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/14(月) 20:40:34.51 ID:ZOMrQAKt0

(メ`ωメ)「早く紐を引くんだ!」

(゚A゚)「ちくしょう! 何だよこれ! ちくしょう!」


無我夢中でブーンの体を探ると、宙を舞っている紐に手が当たった。
気力を振り絞り、紐を掴んだ手を、ゆっくりと前に引き伸ばす。

手応えがあった。
何かが外れるような、確かな手応えが。

その直後、パラシュートが開いた事による急激な反動を受け、ドクオは気を失った。


第三話「はこ」へ続く


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