('A`)ドクオは人体実験の被験者にされたようです


1 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 19:52:35.51 ID:OF1QPI7E0




某国で、ある人体実験が行われている。





3 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 19:53:46.86 ID:OF1QPI7E0


実験の原理、ルールを以下に記す。


1:この実験は危機的状況下におかれた被験者の脳波、行動パターンを分析する心理実験の一種である。
2:この実験のデータは防災、研究の分野において非常に役立っている。
3:より正確なデータを得るため、死傷者が出る可能性もある危険な実験となっている。
4:実験中に起きた事故等については、例外(5)を除き一切の法律が適用されない。
5:状況と全く関連性の無い行動を意図的に取った者は、4が適用されず実験終了後実験法によって裁かれる。
6:実験に参加した被験者には全員に1億の報酬と、一部の税金が永久に免除される手当がつく。
7:実験は終了の条件を満たすか、行動可能な者が全体の1割以下となった時終了となる。
8:終了条件、状況設定、人数設定は毎年異なり、時間制限がつく場合もある。

5 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 19:55:32.12 ID:OF1QPI7E0

実験は毎年一回行われる。
実験が開始される時期はその都度異なり、実験の内容も全く異なるものとなっている。

ある時は閉鎖されたビルの中で。
ある時は巨大な迷宮の中で。
ある時は海上の船の中で。
ある時は閉ざされた山の中で。

被験者となった者たちは、終了条件を目指し生きもがいた。


6 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 19:56:54.73 ID:OF1QPI7E0

実験には任意参加が可能であるが、厳しい審査によりそのほとんどが落とされる。
特別な事情があるか、その年の責任者に気に入られでもしない限り、任意参加は厳しい。


つまり被験者のほとんどは強制参加者なのだ。


彼らはごく普通の日常を送り、ささいな挫折と、ささいな幸福を味わい生きてきた者たちである。
その者たちが、ただただ生きる為に、戦い、抗い、もがき、苦しみ、そして死んでいく。

それは実験という名を借りた、世にも恐ろしい、最悪のゼロサムゲームだった。



第零話「ぷろろーぐ」


12 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 19:59:11.12 ID:OF1QPI7E0


――ショボン 実験開始から5日前――


天気の良い日だった。
雲は無く、ガスによって汚染されているはずの空は、青々しく澄んでいる。
照りつける太陽が、じりじりと街をあぶっていた。

その日、都内の小さな霊園の中に、ショボンはいた。
等間隔に並んだ墓石のうちの一つに、先ほど道ばたで見つけた一輪の花をそっとたむける。

花をさす場所もあったが、彼は墓前に直接花を寝かせた。


(´・ω・`) 「……」


特に理由はなかったが、その墓に話しかけたい気分になった。
突如目の前に姿を現した、まだ現実味の無い死の恐怖が、彼にそうさせたのかもしれない。


17 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:00:14.79 ID:OF1QPI7E0


(´・ω・`) 「兄さん……行ってきます」


ただ一言、それだけだった。

あまり待たしてはいけないと思い、彼は墓前の前から離れた。
すぐ傍で待っていた、スーツを着た軍人の男たちの元へ歩いていく。


(´・ω・`) 「お待たせしました。行きましょう」


軍人たちは何も答えず、路肩で止めていた車の中に、ショボンを押し込める。
動き出した車の中で、彼はずっと外の景色を眺めていた。

もう二度と見られない景色かもしれないと思うと、味気ない街並みも、妙に愛おしく思えた。


21 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:01:41.58 ID:OF1QPI7E0


――レモナ 実験開始から113日前――


競技場のトラックを、彼女は疾走していた。
自分の吐息だけが聴覚を支配し、狭まっていく視界は、もはやゴールラインしか見えていない。

躍動する筋肉が、彼女を前に前に押し出すように伸縮する。
残り50メートル……。
30……。
10……。


|゚ノ ;^∀^) 「はぁ……! はぁ……!」


ゴールラインを越えてから、徐々に走る速度を落とす。
視界が開け、目の前に巨大な競技場が広がった。

後ろから彼女のコーチが近づいてきた。
ストップウォッチを持って、やや興奮気味に彼女に話しかける。


24 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:03:00.49 ID:OF1QPI7E0


('、`*川「ベストタイムだよレモナ! 今日は随分と調子がいいね」

|゚ノ ;^∀^) 「……ありがとうございます」

('、`*川「よーしじゃああと五本いってみよーか!」

|゚ノ ;^∀^) 「あの……休ませてくれると嬉しいんですが……」

('、`*川「駄目。今日は試しに、限界まで走らせるから」

|゚ノ ;^∀^) 「……足が壊れますよ」


まるで自分が走るかのように、コーチはその場で足踏みをしている。
自分の限界、それはどこなんだろうか。
そんなことを考えながら、レモナは仕方なく、もう一度スタートラインに歩いていった。


25 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:05:47.70 ID:OF1QPI7E0


――デミタス 実験開始から25日前――


昼休み、職員室の自分の机の上で、デミタスは弁当箱を広げていた。
以前は彼の妻が作っていたのだが、ここ数年は彼の手作りだった。

その彼の後ろから、一人の男子生徒が近づいてくる。


(,,゚Д゚)「先生ーちょっとこの問題なんですけど」


学校指定の問題集を見せながら、男子生徒は媚びるような声で言った。


(´・_ゝ・`)「またか。今度は何だ?」


28 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:08:16.35 ID:OF1QPI7E0


(,,゚Д゚)「単振動の問題なんですけど、周期が出せなくて」

(´・_ゝ・`)「初歩的な問題じゃないか。ちょっと見せてみろ」


弁当箱を横にのけて、問題集を広げる。
頭の中でいくつか数式を計算し、どこで躓いたか、どうやって教えるかを考え始めた。

その時目の端で、数人の生徒が職員室に入ってくるのが見えた。
横目で確認すると、男子生徒と同じ問題集を、全員が手に持っている。


(´・_ゝ・`)(やれやれ……また飯抜きか)


勉強熱心も考え物だな、などと思いながら、デミタスは弁当箱に蓋をした。


29 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:10:10.95 ID:OF1QPI7E0


――ドクオ 実験開始から34日前――


幾度となく足を運んだ、雑居ビルのゲームセンターに向かって、彼は交差点を渡っていた。
学校帰りに、ゲームセンターに寄るのが彼の日課である。

彼の名前はドクオ。
夜間学校生で、授業が終わるのはいつも日付が変わる頃だ。


('A`)(……どっかに一億円落ちてねえかな)


彼は歩くとき、決して前を向かない。
以前目があったというだけで、チンピラ風の男に酷い目に遭わされたことがあるからだ。

ただ自分のつま先だけを見て、黙々と街を歩き続ける。
その時彼のすぐ傍から、甲高い女の声が聞こえた。


31 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:12:51.20 ID:OF1QPI7E0


ミセ*゚ー゚)リ『えー彼氏なんていないですよー』


24時間営業の、電気店の店先に並び出されたテレビの一つに、アイドルの姿が映し出されている。
彼の嫌いな、下らないバラエティ番組のようだった。


('A`)「……嘘つけ。どうせヤリまくってんだろ」


ドクオの呟きは、近くにいた中年の女性に聞こえていたらしい。
彼女は不審そうな目で、ドクオをじろじろと見てくる。


('A`)「見てんじゃねえよブス……」


女の目が見開かれるのを見てから、ドクオは歩き出した。


35 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:16:11.38 ID:OF1QPI7E0


目的のゲームセンターにつくと、彼はすぐに千円札を両替した。
電子音の海の中、薄暗い店内をうろつき、乱入が出来る台を探す。


('A`)(今日のカモはどいつだ……)


子供の頃からゲームばかりしていたので、その腕前はかなりのものだった。
特にこのゲームセンターにあるゲーム機は、全て網羅していた。

乱入可能のレーシングゲームや、格闘ゲームなどで相手を叩きのめす。
それが彼の、唯一の趣味だった。


('A`)(チッ……空いてねえ)


台は全て埋まっていて、後ろで順番待ちらしき者も見える。
仕方が無いので、順番待ちのいない格闘ゲームの台の後ろで、空くのを待った。


36 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:18:32.11 ID:OF1QPI7E0

向こう側の台が負けたらしく、席から人が離れていくのが見えた。
ドクオは即座に向こう側に移り、百円を投下し、乱入対戦を始める。

3-0で完勝すると、すぐに他の者が乱入してきた。
二人目は中々強く、3-2だが最後は手堅く勝った。


('A`)(……?)


しかし乱入者は二人目で途切れ、コンピュータと対戦することになった。
3-2で勝つようにして、誰か乱入してこないかと待っていたが、ついにラストステージまでいってしまった。


('A`)(ヘタレ共が……)


ラストステージの前に、少し長めのデモがある。
それが流れ始めた時、ドクオは後ろから声をかけられた。


38 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:20:29.35 ID:OF1QPI7E0


男「君、未成年じゃない?」


話しかけてきた男は、まだ若く見えたが、年齢はわからなかった。
その口ぶりから、ドクオはその男を補導員だと考えた。


('A`)「違いますよ」

男「このゲームセンターさ、未成年は12時から来ちゃ駄目なんだけど、君いくつ?」

('A`)「38」


ドクオの言葉に、男は顔をしかめた。


男「冗談言わないでよ。未成年なんでしょ? 家に帰った方がいいよ」

('A`)「……うるせえよ」


男は右手でぽりぽりと頭を掻いた。
どうしようか考えているらしい。

その時ドクオは、男の左手の異常に気がついた。


39 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:23:03.84 ID:OF1QPI7E0


男「じゃあさ。この台で僕と対戦して、僕が勝ったら家に帰る。どう?」


ドクオは押し殺した声で笑っている。
男の左手を指さし、ドクオは言った。


('A`)「その手でゲームする気か?」


男の左手は、親指以外が全て欠損していた。
彼はドクオの見下す対象に入っている、障がい者だったのだ。


男「大丈夫。ゲームは得意だから」

('A`)「俺に勝てる訳ねえだろ」

男「本当に得意なんだよ。昔は、一日十五時間くらいやってたし」


44 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:24:47.84 ID:OF1QPI7E0

ドクオの言うことなど聞かず、男は台の向こう側にまわった。
すぐに画面に「CHALLENGER」の文字が映し出され、キャラクターの選択画面に移る。


('A`)(一日十五時間……嘘も大概にしろよ……)


ドクオは完膚無きまでに叩きのめしてやろうと、一番得意なキャラを選択した。
その後、男が補導員では無く、家裁の調査員だと知ったのは、ドクオが3-0で負けてからのことだった。


48 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:27:14.93 ID:OF1QPI7E0


――ロマネスク 実験開始から17時間23分前――


空港に設けられている、不審者などが連れて行かれる部屋に、ロマネスクはいた。
彼の目の前には、数台のコンピュータとモニタが、机の上に乱雑に置かれている。

ロマネスクは還暦に近い年齢だが、見た目からでは全くわからない。
目の鋭さや、肌のみずみずしさから、三十代に見られることもあるくらいだ。


( ФωФ)「ねえ」


ロマネスクは機械を通したような声で、近くで直立したまま待機していた軍人たちに声をかける。
座っていた座椅子を回転させ、体をそちらの方へ向けた。


52 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:29:44.34 ID:OF1QPI7E0


軍人1「何でしょうか」

( ФωФ)「賭けをしようよ。こいつらの中で、誰が生き残るか」


そう言いながら、ロマネスクはモニタに映し出されている、十三人の男女を指さす。
モニタに繋がれたスピーカーからは、彼らが順番に自己紹介をしている声が聞こえた。


軍人1「私はブーンに賭けます」

( ФωФ)「へえ。他は?」

軍人2「私はモララーに」

軍人3「自分も同じく」


その後も軍人たちは、ブーンとモララーの名前だけを挙げ続けた。
彼らは、どちらを選んでも、負けることは無いだろうと考えていた。

しかし最後の一人だけは、別の者を挙げる。


55 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:31:45.17 ID:OF1QPI7E0


軍人14「自分は、C7に賭けます」


それを聞いたとき、ロマネスクの目が光った。
他の軍人たちも、大げさに反応したりはしないが、多少動揺が見える。

言ったのはまだ若い軍人だった。
C7は、彼らと同じ軍人である身ながら、今回被験者となった者である。


( ФωФ)「いいね、お前。いいよ。センスがある。私もC7だ」


ロマネスクはくるりと座椅子を回すと、再びモニタに体を向けた。
モニタの中では、被験者たちの自己紹介がまだ続けられていた。

軍人たちは、しかめっ面で若い軍人を睨む。
若い軍人は、何が失言だったのか未だわかっていないようで、目をきょろきょろさせていた。


60 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:33:51.98 ID:OF1QPI7E0

他の軍人たちは、C7がどういう人間かわかっていたので、あえて名前を挙げなかったのだ。
戦場で味方でさえ殺しかねない、使い物にならないサイコパス。
それが、C7の軍人としての評価だった。


( ФωФ)「ん?……ようやく来たか」


モニタには、十四人目の被験者が、部屋に入ってくる様子を映し出していた。


( ФωФ)「そろそろ行こう。あまり待たせるのは悪いよ」

軍人「はい」

62 : ◆CnIkSHJTGA :2008/01/06(日) 20:35:52.75 ID:OF1QPI7E0

ロマネスクは軍人を引き連れて、小部屋から外へ出た。
エアコンの効いた部屋から急に外に出たので、生暖かい空気が体を包み、気持ち悪かった。

実験の被験者が集められている、小会議室へと向かう。


( ФωФ)(いいね……担当者って面白いね……)


もっと早く、実験の担当者に志願していればと、彼は今更後悔していた。
小会議室の前まで行くと、傍にいる軍人の一人に合図をする。
軍人は軽く頷くと、小会議室の扉を勢いよく開けた。


第一話「はじまり はじまり」へ続く


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