('A`)ドクオと忍者のようです
第二話 〔友達一人できるかな〕
( ^ω^)「うはwwwwうめぇwwwww」
朝の通学。
今日も忍者は元気に走り回っていた。
(*'A`)「うはwwwwうめぇwwwww」
忍者が繰り出す、驚異的なアクションの数々。
ドクオは今日も変わらずに、声を上げてしまうのであった。
「またあいつかよ」
「ブログにあいつのこと書いてみよw」
「何あいつwwwwクオリティたけぇwwwwwバロスwwwww」
「ほら……こんなに濡れてきたじゃねぇか……」
「違……ん、ちが、う……! あっ……」
周りの乗客達も、ちゃんと反応していた。
('A`)「……」
学校に着いてからの足取りは重かった。
昨日、あのような出来事があったばかりだ。
元々小心者のドクオには、仕方のない事であろう。
自分の教室の前に着く。
扉を開ける手が、何故か自分の物ではないような気がした。
(´・ω・`)「あ」
扉の向こうには、一人の男子生徒がいた。
見た感じ、ドクオの机に何かをしているようである。
('A`)(また、落書きか……)
既にそんな処遇は慣れてしまっている。
今まで沢山あったものが、少しだけ増えるだけ。
ただ、それだけなのだ。
(´・ω・`)「……おはよう」
しかし、それは今までとは違っていた。
(;'A`)「えぇ!?」
予想外の展開に、思わず声を上げる。
今まで、このような悪意のない挨拶を学校でされた事があったであろうか。
ただの挨拶が、あまりにも新鮮すぎた。
(;'A`)「お、おはよう」
(´・ω・`)「挨拶だけでそんなに焦らないでもらいたいな」
(;'A`)「ご……ごめん」
(´・ω・`)「いいよ。いちいち謝らなくて」
扉のところに立ちつくしたまま、ドクオは少年を見ていた。
近付いたら、何か邪魔になる気がして。
(´・ω・`)「いつまでそこに突っ立ってんの?」
どこか憂うような顔付きで、ドクオを呼ぶ。
表情は、変えない。
(;'A`)「ごめん……」
(´・ω・`)「だからいちいち謝らないでくれない?」
同じ注意を受け、再度謝りそうになるのを堪える。
ドクオは、少年の元へと歩いた。
彼の名は、ショボン。
(;'A`)「ショボン……君、なにやってたの?」
(´・ω・`)「ん? 落書き消し」
(;'A`)「え……?」
ポケットに何かを突っ込みながら、ショボンは軽く答える。
予想していた答えとは全く真逆の答えに、ドクオは一瞬反応を遅らせた。
(´・ω・`)「あまりにも落書きが多いからさ」
ドクオは、机に目を遣った。
あまり消えているようには見えない。
むしろ、昨日以上に落書きが増えている。
しかしながら、ドクオはショボンがこのことを憂いてくれたことが、純粋に嬉しかった。
(;'A`)「俺に……同情してくれてるの……?」
(´・ω・`)「んー、そこそこ」
全く表情を変えずに、サラリと答える。
その言葉はドクオにとって、億千の賛辞よりもとても尊いものに感じた。
('A;)「このクラスに、俺のこと、同情して、くれる人が、いるなんて……」
ドクオの視界がぼやけた。
嗚咽の入り交じった声で、感動を表現する。
そんなドクオの姿を見たショボンが一言。
(´・ω・`)「いや、泣かれると流石に気持ち悪い」
(;A;)「……」
涙で歪んだ世界の中。
ドクオは深い深い絶望の暗闇へと、身を放り投げられた。
(´・ω・`)「いつまで泣いてるの? 気持ち悪いな」
数時間後、ドクオの目にはモララー達と会話するショボンの姿が。
(´・ω・`)「…………」
( ・∀・)「………………w」
m9( ^Д^)6m「……wwwwwwwwwwwwww」
(´・ω・`)「………………」
ある程度距離があり、且つクラスの喧騒に紛れた会話だったため、内容は聞き取れない。
しかし、端から見た感じでは、とても楽しそうに談話していた。
('A`)(ショボン君もモララー達とやっぱり話すんだなぁ)
ドクオはどこか、不安な気持ちを感じていた。
結局は、ショボンもモララー達と同じなのではないのか。
朝に彼が口にした同情というのは表面上だけで、実際は自分を虐げる側の人間なのではないか。
そんな考えが、ドクオの脳内をいつまでも巡り続けた。
だが、その考えは数時間後に無駄となる。
放課後。
みんなが帰宅や部活の準備を済まして席を立つ。
ドクオだけが一人、いつまでも座って残っていた。
放課後すぐに学校を出たところで、ドクオには一緒に帰る人などいない。
学生とは基本、結構な人数が仲間同士で帰る。
その時間帯に帰ると、ドクオが一人だけで居辛くなってしまうのだ。
だから、ドクオはすぐには帰らない。
電車内での至福の時を、堪能するために。
(´・ω・`)「じゃあ、帰ろうか」
('A`)「え?」
しかし、今日はいつもと違った。
一人で帰ろうとするドクオに、声を掛ける人物が居たのだ。
全くの無表情で、帰り支度をするショボン。
(;'A`)「俺なんかと一緒に帰って……良いの?」
ドクオは、昼の光景を思い出していた。
モララー達と楽しげに談議する、ショボンの姿を。
もしショボンがモララーのグループなら、一緒に帰ったら何を言われるのかわかったものではない。
(´・ω・`)「嫌なら別に良いけど」
(;'A`)「ご、ごめん。是非一緒に帰ってください」
ショボンの揺さぶりに、先程の葛藤など何処吹く風でドクオは返答した。
その答えに、ショボンが口を開く。
(´・ω・`)「言ったじゃん。いちいち謝るなって」
朝言われた注意を、再度投げ掛けられた。
それに対する謝罪を今度は心の中でしながら、ドクオも帰り支度を済ます。
(;'A`)「じゃ、じゃあ、帰ろうか」
(´・ω・`)「うん」
無表情で答える。
モララー達と話している時は、楽しそうに笑っていたのに。
疑問と不安を心に内包しながら、ドクオは学校を後にした。
(´・ω・`)「で、お前の家ってどこらへん?」
(;'A`)「あ、えっと……ここから30分くらい電車乗ったとこ」
(´・ω・`)「じゃあだいたい一緒か」
駅に着いてから、交わした会話だ。
これ以外は、電車が来るまで一言たりとも話していない。
その無言のプレッシャーに、ドクオは更に悩ませられた。
(;'A`)(帰るのに誘うなら何か話題振ってくれても良いのに……)
ドクオが小さく溜息を吐いた瞬間、それを掻き消すように電車が到着した。
ドアが開くと同時に、二人が乗り込む。
(´・ω・`)「……」
ショボンは相変わらず、無言であった。
(;'A`)(何か喋ってもらいたいんだけどなぁ)
電車の揺れる音だけが、やたらと耳に残った。
(´・ω・`)「……じゃあ僕、ここだから」
そう言い残して、ショボンは電車から降りた。
降車駅は、ドクオが降りる駅の一つ隣であった。
(;'A`)「あぁ……うん、バイバイ」
閉まりかけた扉に向かって、声を発した。
次第に遠くなるホームに見えたショボンの顔もまた、無表情だった。
(;'A`)(ふぅ……。一体何だったんだろう……)
ショボンと別れてから、ドッと疲れが押し寄せてきた。
朝から見てきたショボンの動向を思い出す。
色々と、不思議な人であった。
(;'A`)(あ、もう着いた)
車掌の声が、ドクオの降車駅を告げる。
初めて人と一緒に乗った電車は、やけに着くのが早かった。
気付けば、久々に忍者を見ることなく帰宅していた。
(´・ω・`)「おはよう」
翌朝の電車にも、ショボンはいた。
無表情で、挨拶を投げ掛けてくる。
(;'A`)「え、なんでいるの?」
(´・ω・`)「いや、僕の駅ここだって昨日知ったでしょ?
それとも乗ってきてほしくなかった?」
(;'A`)「いやいやいやいやいや、別にそんなことはないけど……」
(´・ω・`)「なら良いじゃん。一緒に学校に行こうか」
そこからまた、学校までの無言の時間が始まる。
人は掃いて捨てるほど混み合っているのに、ドクオは嫌に静かに感じた。
とにかく、ショボンの存在が気になって仕方なかった。
(´・ω・`)「……」
(;'A`)「……」
結局登校の時も、ドクオは忍者を見なかった。
(´・ω・`)「また増えてるね。落書き」
学校に着いてからの第一声がそれか。
ドクオは小さく肩を落とした。
('A`)「もう……慣れちゃったし……」
ショボンがドクオの机を嘗め回すように見ている。
正直、ドクオは気が引けた。
机の上には、醜い悪口が並べられているのだ。
('A`)(見られてる……)
無論、それはあまり見られて気分の良いものではない。
全部自分に向けての罵倒文句なのだから。
(´・ω・`)「……」
ショボンは、しばし見回した後に無言で自分の席へと向かった。
これで、午前中のショボンとドクオの絡みは終了となる。
何処にもいない、空気のような存在。
それだけをドクオは心懸けていた。
そうすれば必要以上に叩かれる事はない。
だが、それでもドクオは邪険に扱われていた。
何をしていなくても、存在自体を拒絶されていたのだ。
( ・∀・)「うわ、息してるw気持ち悪いな」
( ^Д^)「そらちゃんのDVD鼻に詰まらして死ねばいいのに」
( ´_ゝ`)「そういえば弟者。実は俺、粗チンだったんだ」
(´<_` )「兄者、何故それをこのタイミングでカミングアウトする」
( ´_ゝ`)「いや、なんとなく(伏線的な意味で)言わなきゃいけない気がした」
(´<_` )「そんな伏線ないだろ……常考」
('A`)「……」
ドクオはただひたすら、自分への批難を耐え続けていた。
(´・ω・`)「よし、帰ろうか」
この日の放課後も、ショボンは誘ってきた。
感情の読み取れない、能面を彷彿とさせるような表情で。
('A`)「あ、うん」
返事をして、駅へと向かう。
この日の空は曇り空。
何処か、暗い影が差していた。
(´・ω・`)「何かゲームとかやったりするの?」
電車に乗り込んでしばらくすると、不意に質問をされた。
終始無言だった昨日とは違う。
やはり、ショボンも無言は気まずかったのだろうか。
('A`)「えっと、はじるs……スマブラXとか最近買ったかな」
ショボンの質問に、口を滑らしかけつつも無難な答えを返す。
意外と、ショボンの食いつきは良かった。
(´・ω・`)「スマブラXか。僕もあれやってみたかったんだよね」
('A`)「じゃあ今度うち来てやってみる?」
(´・ω・`)「いや、それは良い」
('A`)「……」
一種の気まずさを感じつつも、折角顔を見せた会話の芽をドクオは枯らせる事はしなかった。
('A`)「ショボン君は何を使うの?」
(´・ω・`)「僕は64版だとピカチュウ、GC版だとシークかな」
('A`)「じゃあXだとディーディーにはまるかもね」
(´・ω・`)「ふーん、お前はどんなキャラ使うの?」
('A`)「俺は全部通してドンキーだよ。掴み→無理心中コンボが強くてさ」
(´・ω・`)「あぁ、一番うざいタイプのプレイヤーね。死んでほしいくらいに」
('A`)「……」
結局、会話がそれ以上続く事はなかった。
前日と同じく、電車の音だけが周りの空気を支配した。
(´・ω・`)「……」
('A`)「……」
(´・ω・`)「それじゃあここで」
駅に着き、ショボンが降りる。
ドクオも別れの言葉を告げると、ゆっくりと電車の扉が閉まった。
段々と、駅が後方へ走っていた。
('A`)「ふぅ……」
小さく息を吐く。
ショボンと一緒にいると、何故か息が詰まった。
ドクオは、やたらと疲労を感じていた。
だが、それよりも昨日以上に会話ができた事に満足だった。
('A`)(これって友達、なのかな……?)
駅に着くまでの自問自答。
様々な答えが浮かんでは消えたが、電車が駅に着いたので考えるのを止めた。
ドクオは改札を出るとすぐに、家まで一直線に帰宅したのであった。
('A`)(そういや、忍者……)
この日は結局、一度たりとも忍者を見る事はなかった。
そんな日々が一週間ほど続いた。
登下校はショボンと一緒に通うが、学校生活では誰とも話さない。
ただ、モララー達の口撃を耐えるだけの日々。
しかしながらドクオは、そのような鬱憤も登下校の際にショボンと話す事で発散した。
最初こそは気まずさがあったものの、今ではすっかりショボンに心を許していた。
いくら話しかけても、全く表情を変えないショボン。
最初こそは辛かったが、今ではそれが、ドクオにとって長所に感じられるようになっていた。
何を言っても嫌な顔一つしないのである。
('A`)「今日さ、朝飯が餃子だったんだ」
(´・ω・`)「へー」
('A`)「朝から餃子なんて重いってのw」
(´・ω・`)「ふーん」
('A`)「あ、重いって重量的な意味での重いってわけじゃないからね」
(´・ω・`)「はいはい」
このような会話が、ドクオには堪らなく愛おしく思えた。
毎日の登下校だけが、ドクオの楽しみになっていた。
そしてショボンと登下校を共にし始めてから、ドクオは一度も忍者を見ていなかった。
('A`)(今日はいないんだ……)
とある日、ショボンはいつもの電車に乗って来なかった。
ドクオは、久々に一人で通学する事となる。
('A`)(どうしたんだろ……)
ショボンのことが気掛かりで、この日の朝も一人なのに忍者を見る事はしなかった。
ふと視線を投げ掛けた空は、雲に埋まっていた。
どこか漠然とした不安を抱え始めていることに、ドクオは気が付いた。
('A`)(まぁ学校に着けば会えるか)
自分に言い聞かせて、納得させる。
そうしないと、不安の気持ちに押し潰されそうになるから。
しかし、学校に着いたと同時に無理矢理の納得は崩される事となる。
ドクオが始めに見たのは、いつもは無表情なショボンの笑顔。
そして、彼と一緒に笑うモララー達の姿であった。