2 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:26:47.02 ID:h+qK/JpM0
第十三話 〔荒巻 おぶ めもりー〕



弟者の手に持たれた、銀色のスプレー缶。
それが、弟者の忍具だという。

('A`)「弟者君……それ……?」

(´<_` )「……」

前日のやり取りも忘れて、ドクオは弟者に質問を投げかける。
もちろん、返ってくるのは沈黙だけ。
それによって、ドクオも今自分の置かれている立場を思い出す。

从'ー'从「えへへ。私が作ったんだよ~」

妙に間延びした声がドクオの耳に届く。
目を向けてみると、渡辺が得意げに胸を張っていた。
タイトな忍び装束が体のラインを強調して、そんな状況で胸を張るものだからドクオは目のやり場に困ってしまった。

从'ー'从「まぁ作ったって言うよりも種を忍具の姿に成長させただけなんだけどね~」


4 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:29:08.41 ID:h+qK/JpM0
('A`)「……? どういうことっすか?」

一瞬眉をひそめ、渡辺の言葉に反応する。
どうやら渡辺の発言の意味を汲み取れなかったようだ。

从'ー'从「私の忍具はね。他の人の忍具を作るための忍具なんだよ~」

のんびりとした口調で、渡辺が答える。
しかし、その回答はドクオにとって抽象的過ぎた。
未だにドクオは、理解しきれないといった顔をしている。

( ^ω^)「渡辺ちゃん、ドクオ君に忍具を見せてやってくれお」

ここで内藤の助け舟。
渡辺は内藤の姿へ目を向け、微笑みながら小さく首を縦に振った。

从;'ー'从「ドクオ君、これが私の忍g……あれれ~? 私の忍具がないよ~?」

(;'A`)「……はい?」

(;^ω^)(えぇ~……)
  _
( ゚∀゚)(かわええ)

\(^o^)/(さすが俺の嫁)

(´<_` )「……」

/ ,' 3(二話ぶりの登場とか長老って設定のくせにワシどんだけ影薄いねん)

5 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:32:13.12 ID:h+qK/JpM0
|/゚U゚| + 激しく到達 +

数分後、忍者が荒巻の部屋の扉を回して姿を見せる。
その手には、ねずみ色のコードのようなものが忍者の動きに合わせ揺れていた。
手からはみ出た部分は、重力に負けてだらしなく垂れている。
  _
( ゚∀゚)「もう忘れないようにしろよ」

忍者が持ってきた渡辺の忍具を、長岡が受け取る。
長岡経由で渡された忍具を、渡辺はしっかりと握り締めた。

从'ー'从「えへへ。わかった~」

大きめの目を細め、にこやかに返答。
部屋の空気が華やいだ。
一瞬、ドクオはそう感じた。

(*'A`)「……」

渡辺の一挙動一挙動に、ドクオの心が揺れる。
胸と喉のちょうど中間地点あたりに、何かがつっかえたような。
初めて味わう、心地悪さを感じない息苦しさであった。


8 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:34:47.91 ID:h+qK/JpM0
从'ー'从「で、これが私の忍具だよ~」

ドクオの方へと顔を向け、見やすいように小さく手を突き出す。
上に乗っているのは、両端に消しゴムほどの大きさの立方体がついたコードであった。

(;'A`)「ふっ……ふぁい!」

渡辺を眺め、呆然としていた。
そんな時に突然、掛けられた声。
ドクオが体をビクつかせ、素っ頓狂な返事をしたのも致し方のないものなのだろう。

从'ー'从「これをね~」

渡辺はドクオの様子に気が付いていないのか、マイペースに忍具の説明を始める。
手の上に乗せられた細長い忍具の端が、渡辺のか細い指に持ち上げられた。

从'ー'从「こっちを種に、もう片方を原料に挿すの~」

(;'A`)「原料……ですか?」

从'ー'从「うん。今ここにはないけど、粘土みたいなやつに挿すんだ~。そうすると勝手に形が変わるの~。
     成長した種が所有者の情報をね。私の忍具を通して粘土に伝えるんだ~。それで形が変わるの~。」

おっとりとしたペースの説明を渡辺から受ける。
だが、やはりドクオには伝わらない。

(;'A`)「わかったようなわからないような……」

9 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:38:47.87 ID:h+qK/JpM0
  _
( ゚∀゚)「つまりな、種はお前らの手に触れた瞬間からずっと成長していく。持ち主の情報を蓄積していくんだ。
     そんである程度成長したら発芽。時計とかの機能が現れる。そこで彼女の出番だ」

ドクオの言葉を受け、長岡が説明に加わる。
一言一句、ドクオの耳に届けられた。
  _
( ゚∀゚)「彼女の忍具を片方は種、もう片方は原料に挿す。すると、種の情報が原料に流れるわけだ。
     そして勝手に大まかな形に変わるから、それを仕上げる。これが忍具の作り方だ」

( ^ω^)「渡辺ちゃんの忍具あってのことなんだお」

内藤の言葉に、渡辺が小さく笑う。
照れ隠しで笑ったのか、純粋に嬉しくて笑ったのかはわからない。
ただ一つ、確実なのは。

(*'A`)(かわいい……)

ドクオの胸に、小さな衝撃が発生したことであろう。
継続的に、何度も胸を謎の力で打たれる。
不思議と、心地の良い衝撃であった。

从'ー'从「えへへ~。で、それでなんだけど~」

(*'A`)「……」

Σ(;'A`)「え? あ、はっ、はい!」

10 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:41:07.69 ID:h+qK/JpM0
  _
( ゚∀゚)(見惚れてたな)

( ^ω^)(見惚れてたお)

\(#^o^)/(俺の嫁に見惚れやがって)

(;'A`)(見惚れてた……)

从'ー'从(……?)

从'ー'从「まぁ良いや。それでね~、ドクオ君の忍具も作ったんだけどいる~?」

(;'A`)「……はい?」

渡辺の言葉。
それは、ドクオの耳から入り、脳へと届く。
同時に、軽い混乱を引き起こさせた。

(;'A`)「さっきも思ったんですけど、なんで俺が忍具を……?」

思わず問う。
理由もわからぬままに、忍具を受け取っても仕方がない。
まさか、忍者の里の土産などというわけでもないだろう。

軽い沈黙が、部屋に流れた。


12 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:44:55.93 ID:h+qK/JpM0
/ ,' 3「君の力が、ワシらには必要なんじゃ」

沈黙を破ったのは、部屋の主であった。
しわがれた声が、全員の耳へと届く。

(;'A`)「え? えっと……、よくわからないんですけど、戦うとかそういう関係のですか?
    それならここは忍者の里なんだし、そこらに忍者がいっぱいいますよね? その人達がいるじゃないですか」

( ^ω^)「忍者の里にいる忍者は、僕達みたいに長老の近くにいる人間以外はほとんど一般人のようなものなんだお。
       忍具や忍術があるといっても、普段はそれを遊び道具としてしか使わない。戦いなんて知らない平和な人達だお」

内藤の言葉の後、軽いため息が微かに聞こえた。
荒巻である。

/ ,' 3「話すと長くなるが、ワシが君の力を欲する原因を色々と説明をしようか。ワシの昔話じゃ。聞いてくれるか?」

荒巻の真っ直ぐな眼差し。
着ている服とのアンバランスな真面目さ。
思わずドクオは、縦に首を振った。

それを見て、荒巻は微笑む。
顔に刻まれた多くの皺が、一斉に深くなった。

/ ,' 3「ありがとう。力を貸してくれるかどうかはワシの話を聞いてからで良いんじゃ。しっかりと判断してくれ」

そして荒巻は語り始めた。
彼がまだ、普通の忍び装束を着ていた頃の話を――。


15 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:47:49.79 ID:h+qK/JpM0
本話の時間から、50年ほど遡る。
今と比べると、まだ真新しい荒巻の家。
工場も、それほど規模が大きいわけでもない。

/ ,' 3「よし、今日の仕事はここまでにするか」

皺もなく、現在では白く染まっている髪も、まだ黒々としている。
若かりし頃の荒巻。

「うん、お疲れ様!」

( ,'3 )「あー、疲れた」

そして、荒巻の声にこたえる二人。
一人は、何度か話中に出てきた中嶋だ。
そしてもう一人が。

/ ,' 3「マイスートハニー、今夜はベッドでチェケラッチョだぜ!」

川д川「おーいえ。ベイベ」

当時の荒巻の恋人、貞子である。



18 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:49:47.35 ID:h+qK/JpM0
お世辞にも可愛いとはいえない容姿。
無造作に伸びた髪を整えもせず、骨張った顔は絶えず蒼白。
例えるならば、美輪明宏。

/ ,' 3「貞子ちゃんかわいいよ貞子ちゃん」

それでも若き日の荒巻は、貞子にベタ惚れであった。
例えば。

川д川「ねぇねぇ、三回まわってワンって言って」

クルクル/ ,' 3三E ', \クルクル「ワン!」

川д川「ねぇねぇ、紐なしバンジーが見たい」

/ ,' 3「イヤホォォォオオォオオオウ!!!」

グシャァ

川д川「ねぇねぇ、リストカットってどんな感じ?」

/ ,' 3「今やってみるね、マイスイートハニー」

サク

/ ;; 3「……」



21 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:52:35.23 ID:h+qK/JpM0
とにかく、荒巻の貞子に対する愛情は計り知れないものがあった。
もともと、荒巻の工場で働いていたのは荒巻、中嶋、貞子の三人。
人数も少ないためか、少しでも暇ができれば荒巻は貞子と愛し合っていた。

( ,'3 )「……」

それを無言で見つめる中嶋の姿。
まだ規模が大きくはないとはいえ、工場に三人。
中嶋は、静かに孤独を感じていた。

荒巻にも、貞子にも。
二人とは普通に接していた。
だがこの二人との間には、中嶋は確かに自分の踏み越えてはいけない境界線のようなものを感じ取っていた。

/ ,' 3「昨日の貞子の淫らな顔つき、俺の勃起人生ベスト3に入るエロさだったぜ」

川д川「私の体つきであなたを性的に呪まーす」

( ,'3 )「……」

中嶋は、確かに孤独だった。

22 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:54:47.25 ID:h+qK/JpM0
荒巻が指示を出し。
中嶋が動き。
そして、貞子が二人をサポートする。

それによって、工場はうまく回っていた。
ほとんどが機械に頼っているから、人間のやる仕事など微々たるものだ。
三人いれば、それで充分であった。

/ ,' 3「俺たち」

川д川「私たち」

/ ,' 3川д川「「結婚しまーす」」

( ,'3 )「……」

この発表からだろう。
中嶋の心に、大きな孤独が住み着き始めたのは。

今までは三人の仲間。
これからは、一組の夫婦と一人の従業員。
はっきりと形には出さないが、それでも中嶋は関係の移り変わりを悟っていた。



24 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 21:58:32.06 ID:h+qK/JpM0
( ,'3 )「せつねー」

仕事後。
二人が部屋に入っていくのを見届けながら、中嶋は呟いた。
仕事中に忍び装束についた、埃や汚れを手で払う。

『ねぇねぇ、これプレゼントの忍び装束ー』

『なになに、うわぁ。ペアルックだぁー』

『私たちのラブラブさを表すためにあえてピンク色にしてみましたー』

『まぁ俺たちの愛は真っ赤なバラにも負けないくらい赤く燃え盛ってるけどね!』

『きゃあ、素敵!』

( ,'3 )「……」

中嶋は、無言で仕事場から自宅へと帰ろうとする。
呼び出された、忍者。

|/゚U゚| + 激しく到着 +

背中におぶさり、軽く尻を叩く。
それから事が起こったのは、数日後であった。

27 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:10:17.98 ID:h+qK/JpM0
/ ,' 3「貞子ー! 貞子やーい!」

工場の中を、ひたすら探し回る。
荒巻の顔には、今まで経験したことのないような焦りが貼り付けられていた。
新調したばかりのピンクの忍び装束も、荒巻の汗と工場の汚れで色がくすんでしまっている。

/ ,' 3「貞子……どこへ行ってしまったんだ……」

この日、貞子は朝から姿を見せなかった。
出勤時間を過ぎても、太陽が真上に昇っても、そして、西の空が茜色に染まる今でも。
貞子は一度も出てこない。

もう一度、くまなく探す。
朝から何度も見たはずなのだ。
そして、探す相手は婚約者。

工場にいれば、見つからないはずがない。

/ ,' 3「貞子ぉ……」

それでも見つからなかったのだ。
貞子も荒巻と同じデザインの、目立つピンク色の忍び装束を着ているにもかかわらず。

28 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:12:34.36 ID:h+qK/JpM0
/ ,' 3「そういえば……」

ここで荒巻がふと気付く。

/ ,' 3「バルケンもいないな……」

中嶋の姿も見ていないことを。
いつも三人で働いていた工場に、今は荒巻一人。
中嶋が絶えず感じていた孤独を、荒巻が噛み締めることとなる。

/ ,' 3「でもまぁバルケンは別に良いや。貞子ー!」

中嶋のことは軽く流し、荒巻は再度婚約者探索を始める。
いくら声を張っても、返事はない。
いくら視線を動かしても、愛したピンクは見当たらない。

ちなみに余談になるが、荒巻が中嶋を呼ぶときの愛称「バルケン」について。
特にこれといった由来はない。

/ ,' 3「なんかお前バルケンっぽい顔してんな」

川д川「ダーリンナイスセンス!」

/ ,' 3「ははは、やっぱりかい?」

( ,'3 )「……」

初対面以来、ずっとこの名で呼ばれてきただけだ。


31 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:14:24.32 ID:h+qK/JpM0
/ ,' 3「貞子……」

ついに空は黒く染まり、明かりもつけない工場は闇に支配される。
僅かな月明かりが小さな窓から入り、かろうじて工場内の輪郭を浮かび上がらせていた。

/ ,' 3「なんで……なんでいなくなっちゃうのよぉ……」

座り込む。
重力が普段より強く感じた。
尻につく地面の冷たさが、荒巻の心も冷たくさせた。

しんと静まり返った空気。
どこか窓が開いているのだろうか。
時々吹きかけてくる、冷たい夜風。

/ ,' 3「……」

普段は何気ない現象も、今の荒巻には一つ一つが心に響いた。
そんなときであろう。

/ ,' 3「なんだ、あれ?」

暗闇の中に、ぼんやりと存在を浮かばせる白い箱が荒巻の視界に入ったのは。
玄関口の前にある。
荒巻の知らぬ間に、届けられたのであろうか。


34 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:17:19.70 ID:h+qK/JpM0
歩み寄る。
まるで、その箱に引き寄せられるかのように。

/ ,' 3「……」

月明かりを吸収した大き目の箱は、闇の中を微かに光る。
柔らかく、尚且つ温かみのある明かり。
荒巻がそれに導かれたのも、仕方のないことだろう。

箱に、懐かしさを覚えた。
それと同時に、どこか心の底で一抹の不安も感じた。

/ ,' 3「……」

それでも、荒巻は箱を手に取ることに躊躇わなかった。

/ ,' 3「……え?」

箱を持ち上げると、中から何かが落ちてきた。
どうやら底が開いていたらしい。

/ ,' 3「ちょ……いや……」

そして荒巻は我が目を疑った。
何故。どうして。

――箱からピンク色の忍び装束を着ている、関節など関係のない形をした人らしきものが落ちてくるのだろう。
37 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:20:47.59 ID:h+qK/JpM0
『……』

/   3「う……」

『……』

「うわぁぁぁあああああああああああ!!!!!」

悲鳴とも号泣ともつかない、荒巻の声。
その声は、既に同じ忍び装束を着た相手にも伝わることなく。
工場内を反響し、闇の中へと溶けていった。

「貞子! 貞子ぉぉぉおおおおおお!!!!」

力なく項垂れる頭、血の気が感じられない肌の色。
もう何も見つめることはない、光を失った目。あらぬ方向へ曲がりくねった四肢。
そこにあるのは命を持たない、ただの物体である。

月明かりだけが、その場の二人を優しく灯していた。
39 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:23:05.26 ID:h+qK/JpM0
/   3「貞子……貞子ぉ……」

月が地に沈み、太陽が朝日として空に昇る。
窓から差し込む光が、荒巻の疲労しきった顔を照らした。
同時に、荒巻の見つめる「物体」も照らし出す。

/   3「う……何で……」

何度目だろう。
感情の波が激しくなり、視界が涙で包まれる。

/   3「……?」

その時である。
荒巻が歪んだ視界で、箱の中にあるもう一つのアイテムを見つけたのは。

夜の間は暗く、冷静さも失っていたためだろうか。
朝日によって、荒巻の心とは対照的に明るくされた工場。
夜には見えなかった、白い箱の中に存在する一枚の手紙。

そこには。

『もう耐え切れない。中嶋』

簡潔な字で、簡潔な文が書いてあった。


42 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:25:33.53 ID:h+qK/JpM0
/   3「バルケン……?」

荒巻が絶望した原因と、中嶋の名が書かれた手紙が同じ箱に入っていた。
普通なら、それだけで犯人がわかる。
事実、荒巻本人も気付いていた。

/   3「いや……そんな……」

だが、自分の推測を信じたくなかった。
貞子は愛する女、中嶋は愛する仲間。
愛する相手を疑うなど、できればしたくなかった。

しかし、状況は中嶋が犯人だと物語っている。
ならば本人に会って確認を取るだけだ。
その判断に到達するのには、そう時間がかからなかった。

/   3「忍具を……」

どこから取り出したのだろうか。
紫色の座布団、周囲にはビッシリと半透明の物質が付いている。
荒巻の、本当の忍具だ。

中心を、深く押す。

|/゚U゚| + 激しく到着 +

朝日に紛れて、忍者が登場した。



44 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:27:16.78 ID:h+qK/JpM0
一晩中泣きはらした目に、朝日が染みた。
目を細めながら、荒巻は移動している。
前から吹き抜ける風に飛ばされそうになりながら、少しでも油断すると振り落とされそうになりながら。

/   3(なんで中嶋が貞子を……)

すでに荒巻の中の推測は確信へと形を変えていた。
ただ、それを信用したくないだけなのだ。
しかし、十中八九間違いないと考えている自分もいることに、荒巻は気づいていた。

/   3(仲間だったはずだろ……)

ピンクの忍び装束が、風に揺れる。
真っ赤になった目が、また潤み始める。
目蓋に溜まった涙が零れ落ちる瞬間、荒巻は驚くべきものを目にする。

/   3「壁……?」

荒巻宅から中嶋宅の間に、空まで続く巨大な壁が出来ていたのだ。
それはまるで、荒巻の侵入を拒むかのように。

しばらく考え、荒巻は壁を辿ってみることにした。
端まで行けば何かわかるかもしれない。
そう判断してのことだった。



47 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:31:10.77 ID:h+qK/JpM0
/   3「上への道にまで続いていたのか……」

しばらく忍者を走らせ、端まで到着。
そこには天まで伸びる筒状の通路があった。
ドクオたちが忍者の里にやってきた通路である。

そして。

/   3「なんだよ……これ……」

端から見た壁は、忍者の里を見事二つに分けていた。
その左側、荒巻の家がある側は真っ白な壁。
だが右側、中嶋の家がある側には真っ白な壁に醜い蜘蛛の絵が大量に描かれていたのだ。

/   3「……!」

しばらく呆然としていると、蜘蛛の描かれた通路から黒い影が見えてきた。

( ^^ω)「荒巻発見。討伐するホマ」

/   3(なんだこの生き物は……?)

は瀬川である。

顔に直接生えた大量の足、それを動かす姿はなるほど。
蜘蛛に似ていなくもない。
荒巻はどこか冷静に、そのようなことを考えていた。

48 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:34:33.67 ID:h+qK/JpM0
( ^^ω)「ガッシボカ!」

/   3「……」

反撃する元気も無い。
荒巻はただ、は瀬川の暴力を受け入れることに甘んじていた。

( ^^ω)「ホマホマ。ボスが言う通り荒巻はただの腑抜けだホマ」

沢山の足を鞭のように撓らせながら、荒巻に傷を刻み込んでいく。
一撃一撃は拙いものの、それが重なれば多大なダメージとなる。

/   3「……」

それでも、荒巻はただ黙っている。
しかし。

( ^^ω)「そんなんだからボスに婚約者を――」

/   3「うるさい……!」

は瀬川が挑発した彼の思い出に触れた瞬間であった。
荒巻が静かに、そして凄みのある声を発したのは。




50 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:37:23.15 ID:h+qK/JpM0
( ^^ω)「……ホマ?」

それがは瀬川の最期の言葉となる。
荒巻の手元から風を切るような高音が発せられたかと思うと、は瀬川は空高く舞っていた。

/   3「やっぱり、バルケンが……」

小さく呟く声と、は瀬川の落ちる音。
荒巻の手元で回転する座布団が止まるのと、は瀬川の命が終わる時。
これらはほぼ、同じタイミングであった。

/   3「バルケン、お前が何を考えてこのようなことをしでかしたのかは知らないが」

/ ,' 3「俺はお前を討伐してやる!」

壁の奥に向かって、叫んだ。
中嶋に届くように。
自分を奮い立たせるように。

そして、荒巻は蜘蛛の描かれた通路を駆けていった。



52 : ◆qvQN8eIyTE :2008/06/13(金) 22:40:26.38 ID:h+qK/JpM0
/ ,' 3「まぁその後に奥にいたバルケンとは違う男にボコボコにされて逃げて帰ってきたんじゃがな」

(;'A`)「あ、これで話は終わりなんですか」

(;'A`)(ここに来た時に壁に描かれてたグロ裸婦画は長老さんの婚約者だったのか……。対抗したんだなぁ……)

話は現在に戻る。
荒巻の過去を聞いたドクオは、心の中で一人呟いた。

/ ,' 3「での、やはりワシらの力だけでは不安なんじゃ。君には特別な力がある。
    それをワシらに貸してもらえないだろうか。どうか、ワシの痴話喧嘩に力を貸してくれ」

真っ直ぐに、ドクオを見つめる。
その目を見て、ドクオは荒巻の思いを汲み取った。

('A`)(俺なんかに頼るなんて、よっぽど悔しかったんだろうな……)

('A`)「わかりました。不安だけど、俺なんかの力でよければ!」

ドクオは決意した。
こうなってしまったら、荒巻の忍び装束。
それに纏わる悲しい思い出を払拭してやろう、と。

ドクオの言葉を聞いた荒巻は、心の底から嬉しそうに微笑んでいた。

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