- 3 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:02:34.86 ID:UZk/O0aI0
- 第十一話 〔あれ?ばいばい?〕
空は、薄暗かった。
意地悪に太陽を隠す雲から、一滴、二滴と水滴が落ちる。
やがてそれは雨となり、町を濡らし始めた。
('A`)「あ、雨……降ってきたね」
(´<_` )「あぁ、だけど……」
微かな風にも揺れる、頼りない電線の上で言葉を交わした。
雨粒は、二人の体を抜け、張った電線の間を搔い潜り、そして地面に落ちる。
雨粒は、二人の体をすり抜けた。
満遍なく降り注ぐ雨粒たちは、濡れないための逃げ場を作らない。
しかし、ドクオと弟者の体は雨粒から容易に避けることができた。
(´<_` )「全く濡れてないな」
('A`)「やっぱり今の俺らは、たぶん想像上の体だから……」
そう言って、ドクオは教室の中に目を向けた。
明らかにクラスの空気から浮いている三つの影がこちらを向いている。 - 5 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:05:30.58 ID:UZk/O0aI0
- ――今の自分は、彼らの想像した存在なのだ。
そのことを、壷を被る前に説明された。
頭では理解していた。
しかし、実際に体験してみるとどこか、不可思議な感覚が脳を刺激して落ち着かなかった。
(*´_ゝ`)「らめぇwww濡れちゃうのぉwwwwww」
どこからともなく、間が抜けた声が聞こえてきた。
電線の上から、ドクオと弟者は一通り辺りを見回してみる。
(;'A`)「…………!!」
(´<_`;)「…………!!」
先に見つけたのはドクオであった。
若干引きつった表情を浮かべながら、下に指を向ける。
ドクオが示した先は、雨でぬかるみ始めた学校の校庭であった。
(;'A`)「弟者君、あれ……」
そして、その上を転がり回る一つの影。
兄者が心底嬉しそうに体をくねらしていた。
- 9 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:08:05.95 ID:UZk/O0aI0
- (´<_`;)「あー、毎回毎回自分の兄があんなのでストレスが溜まるわ……」
誰にも聞き取れないような声で、小さく呟かれた愚痴。
それは雨音に紛れ、水滴に吸い取られるかのように消えていく。
(*´_ゝ`)「らめぇwwwwああんあんwwww……ってあれ? 濡れてなくね?」
鈍すぎる兄者には、もちろん弟者の愚痴が届くはずもない。
弟者の愚痴同様、ある程度小さな音は雨音に紛れて姿を消してしまう。
音を消すよう意識した足音など、全くもって聞こえないだろう。
(´<_`;)「……おい! あれはなんだ?」
弟者が急に声を張り上げる。
彼の視界には、何本もの足が生えた生物が、地面を転がる兄者に忍び寄る姿が映っていた。
(;'A`)「あれは……」
ドクオにはその生物に見覚えがあった。
短く大量にある足で、カサカサと移動するその姿。
間違いない。ドクオの忍者が見えなくなってから出てきた生物だ。
( ^^ω)「ホマ……ホマ……」
兄者には決して気付かれぬよう、一歩ずつ慎重に、それでも確かに近付いてくる。
一方兄者は、自分が濡れていないことに興奮していて、気付くどころではなかった。
- 14 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:11:22.54 ID:UZk/O0aI0
- ( ^^ω)( ^^ω)「ホマホマ……」
どこから出たのであろう。
さらにもう二匹、先程のと合わせて計三匹。
兄者に少しずつ近付いてくる。
(;'A`)「兄者君! 逃げて!」
迫りくる生物に害があるのかはわからない。
それでも、嫌な予感がドクオの口を動かした。
どこからか、敵意が感じられたのだ。
しかし、容赦無く雨は降り続く。
段々と激しくなり始める雨音に、興奮した兄者。
ドクオの声は届かない。
( ^^ω)「ホマー……」
(´<_`;)「クソ! 兄者! 気付けよ!」
- 19 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:14:47.04 ID:UZk/O0aI0
- (*´_ゝ`)「雨うめぇwwwwww」
兄者は、何に対しても気付くことなく、呑気に空に向けて口を開けていた。
雨粒一滴一滴を、しっかり口の中に入れていく。
本人は、その雨粒が体を抜けて地面に吸い込まれていくことにも気がついてないようであった。
( ^^ω)「ホマッ!」
( ^^ω)「ホマッ!」
( ^^ω)「ホマッ!」
寝転がっている兄者に向けて、遂に三匹同時に飛び掛った。
兄者の視界に、唐突に不穏な影が映ることとなる。
それは、暗くどこまでも広がる空を兄者から奪い、そして、さらには兄者の自由をも奪う。
(*´_ゝ`)「痛っ、もっと優しくwwww尚且つ厳しくwwwwww」
雨が通り抜けた体を、決して通り抜けることも無く。
不振な生物は、その触手のように伸びる足を兄者に絡ませる。
それも、三匹同時にだ。
- 28 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:29:47.26 ID:UZk/O0aI0
- (´<_`;)「兄者ー!」
不安定な電線の上。
普通の体なら踏ん張りが利かないであろう足場で、弟者は兄者の方へと飛び込んだ。
距離も高度もある。無事に届くはずもない。
(;'A`)「弟者く……え?」
――普通の体に限っての話だが。
電線から飛び跳ねた弟者は、目にも止まらぬ速さで地面へと向かっていく。
ただ落ちているのではない。兄者へと飛んでいたのだ。
そして、着地の瞬間に身を捻って、無事に到着。
(´<_`;)「……?」
当の本人が一番驚いているようでもあった。
不意に二人の脳内で、内藤の言葉が再生される。
( ^ω^)『あの壷を被れば、誰かの妄想に乗って自分の意識を上に持っていく事が出来るんだお』
(;'A`)「そっか……今の俺らはあの忍者が想像した存在だもんね……」
(´<_`;)「そんなことより兄者!」
三体の生物に取り付かれた兄者。
しっかりと絡み付かれていて、今では兄者の姿をほとんど確認できない。
生物の隙間から僅かに見える、忍び装束が微かに揺れていた。
- 35 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:34:26.58 ID:UZk/O0aI0
- (´<_`;)「なんなんだよ、こいつらは!」
兄者へと近寄り、絡みつく生物の異形に驚く。
しかし、それどころではないことを弟者は知っていた。
まずは何よりも、兄者の救出を優先させる。
(´<_`#)「クソ! 離れろ!」
(#`´ω)「ホマッ!」
異形の生物を掴み、力一杯引っ張ってみる。
だが、生物も足を必死に絡ませ、精一杯抵抗する。
それも、三匹同時にだ。
(;'A`)「弟者君、俺も手伝うよ!」
雨の音に紛れてなのか。
それとも、弟者がそれどころではなかったからか。
弟者が気付かぬ間に、ドクオも電線から兄者の傍まで下りていた。
- 42 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:37:25.27 ID:UZk/O0aI0
- (´<_`#)「うし、俺がこの生物を引っ張るからその間にお前は兄者を引っ張り出せ!」
(;'A`)「うん……、わかった!」
軽く言葉を交わし、弟者は再度生物に掴みかかる。
思いっ切り引っ張ると、僅かながら隙間ができた。
ドクオは、そこからはみ出した兄者の忍び装束の一部を握る。
(#'A`)(´<_`#)「「ぬおぉぉぉおぉおおおぉおおおおお!!!」」
(#`´ω)(#`´ω)(#`´ω)「ホママママママママママママママ!!!」
二対三。
計五つの叫び声が、校庭に響き渡る。
(;'A`)「……あ」
小さく、ドクオの手元でブツリと音が鳴った。
それを切欠に、各々の叫びが止まる。
- 47 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:39:35.67 ID:UZk/O0aI0
- (´<_`;)「ちょ……お前……」
ドクオの手元、音の原因を弟者が見る。
その手には忍び装束の切れ端が。
そして、申し訳程度に見え隠れしていた兄者の姿は、完全に隠れてしまった。
(*^^ω)「ホマー」
嬉しそうな鳴き声一つ。
残りの二匹も、それに続いて鳴き始める。
(*^^ω)「ホマー」
(*^^ω)「ホマー」
(´<_`;)「兄者! 出て来い!」
鳴き声などお構いなしに、弟者はまだ生物を引っ張り続ける。
既に中からの反応は無い。
兄者はいったいどうしているのであろうか。
( ^^ω)「……ホマ!」
- 54 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:43:36.45 ID:UZk/O0aI0
- 生物が軽く一声あげる。
同時に三匹が中心部、兄者のいるであろう箇所へと体を押し込めていった。
すると世にも不思議な光景が、ドクオと弟者の目の前で起き始める。
生物の体がグニャリと、スライム状になったと思えば、そのまま足の隙間へと体を潜らせていく。
弟者が必死に掴もうとするも、指の間を水のようにすり抜けてしまう。
数秒後には、計二十四本の足で構成された巨大な繭が出来上がっていた。
(´<_`;)「なんなんだよこれは!」
弟者は、その足の隙間に指をかけて、何とか兄者を救う隙間を開けようとしている。
一方ドクオは、あまりの展開に呆然とただ見続けるのみだ。
『ホマホマー!』
繭の中から、突然声が響いた。
弟者も驚いたのか、繭にかけた指を離してしまう。
と、繭が小刻みに震え始める。
(;'A`)「なに……これ……」
ドクオが思わず声を上げる。
繭は小さく震えるたびに、その姿を段々と縮めていた。
中に兄者が入っているにもかかわらず、だ。
(´<_`;)「や、やめろ!」
弟者の制止の声が響く。
しかし、その声も繭には聞き入られず。
ただ、雨音に溶けていくだけとなる。
- 58 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:45:11.94 ID:UZk/O0aI0
- (´<_`;)「あ……兄者……」
既に弟者の言葉が、向けられた相手に届く術は無い。
繭が縮むのを見ていることしかできない状態であった。
弟者の心配をよそに、兄者を包み込んだ繭は順調に縮まっていく。
最初はそれこそ、校内に無数に置いてある机と同じ程度の大きさだった。
それが今では、精々学校で飼われている兎ほどの大きさだろうか。
普通の人間一人が入って無事で済むような大きさではなくなってしまっている。
(;'A`)「まだ……縮んでいく……」
最終的に、兄者を包む繭はピンポン玉程度の大きさにまで縮んでしまった。
(´<_`;)「……!! 兄者……!」
突然、繭が軽く跳ねた。
一回、二回、三回。
そして四回目の跳躍で、二人の目に捉えきれぬ速度で空へと飛んでいってしまった。
(´<_`;)「兄者――――――――!!!」
繭が飛んでいった空へ、叫ぶ。
返ってくるのは、兄者の返事ではなく冷たい雨水。
弟者の体をすり抜け、地面で小さく弾ける。
( <_ ;)「兄者……兄者ぁ……」
弟者の呟きを洗い流すかのように、雨は無情に降り続いた。
- 63 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:47:37.05 ID:UZk/O0aI0
- (;'A`)「弟者君……」
慰めようと、ドクオが弟者に近づく。
肩に手を掛け、顔を覗き込んだ。
( <_ ;)「触るな……」
ドクオの手を、弟者が即座に叩いた。
ゆっくりとドクオへ顔を向ける。
(;<_; )「お前が……お前が兄者の服を破かなければ……!」
(;'A`)「……!」
想像された体でなければ、雨水と間違えたであろう。
弟者の頬を、沢山の水滴が降りていく。
雨水は決して触れることのない頬を。
(;<_; )「お前がっ! 兄者っ! あ……兄者を……! うわぁあぁぁああぁああああああ!!」
(;'A`)「……!」
ドクオは何も話せなかった。
ただ、地にうずくまり泣き叫ぶ弟者の姿を見守るしかない。
雨の冷たさが、やけに身に染みた。
- 68 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:50:52.51 ID:UZk/O0aI0
- 薄暗い空間。高い天井。
クモの巣がいくつか見受けられる。
そこに、どこからともなく小さな繭が姿を現した。
( ,'3 )「……帰ってきたか」
荒巻の部屋と同じく、畳が敷かれたこの部屋。
座椅子に腰掛けて、初老を迎えた男が口を開いた。
( ,'3 )「で、ちゃんと『粗チン』の片割れは捕らえてきたのか?」
しばらく跳ねていた繭に、疑問をぶつける。
すると、繭は段々と膨らんでいき、遂には生物三匹の姿も判別できるほどとなった。
( ^^ω)「しっかり捕まえてきましたホマ」
( ^^ω)「あっちの世界だと、想像体になれて動きやすくて助かるホマ」
( ^^ω)「さすが、ボスが手配してくれた三人だホマ」
絡まらせた足を解かせ、各々が話し始める。
中から小さな光が零れ、消えることなくその場に留まった。
( ,'3 )「そうか。荒巻がドクオと『粗チン』を揃えた時は流石に焦ったが、これで安心だな。
あいつらを利用して正解だった。……モララー、プギャー、ショボンの三人を」
座椅子に任した体を揺らし、男が大声で笑い始める。
蓄えられた髭も、暗闇に染まる忍び装束も。
全てを震わして、どこまでも届きそうな笑い声を響かせた。
- 77 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:56:05.05 ID:UZk/O0aI0
- ( <_ )「……」
(;'A`)「……」
(;^ω^)「……」
_
(;゚∀゚)「……」
空気は、重い。
長岡と内藤が異変に気付き、即座に壷を外した。
それからずっと、空間が沈黙に包まれている。
荒巻の姿は無く、計四人。
壷を外しても意識が戻らず、床に倒れている兄者に眼を向けていた。
(;^ω^)「あの……」
ボソリ、内藤が呟いた。
沈黙が耐え切れなくなったのであろうか。
一斉に目が向けられる。
(;^ω^)「兄者君は向こうで……何があったんだお……」
( <_ )「……」
(;^ω^)「……急に兄者君の壷に亀裂が入ったから……その……」
内藤の疑問に、弟者は沈黙で返す。
更に気まずい時間が流れ始めた。
- 81 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:57:50.91 ID:UZk/O0aI0
- / ,' 3「学校に代理で送った忍者が見た映像を調べてきたぞい」
突然、先程まで姿を消していた荒巻が現れる。
どうやら、兄者の異常について調べてきたらしい。
/ ,' 3「兄者君がこうなった原因がわかったわい」
( <_ )「……」
(;^ω^)「本当ですかお? 一体何が……」
/ ,' 3「兄者君の魂がは瀬川に誘拐されたんじゃ」
_
(;゚∀゚)(;^ω^)「……!!」
荒巻の言葉、『は瀬川』
その単語に長岡と内藤は、二人揃って反応した。
_
(;゚∀゚)「そんな……やつ等が『粗チン』の存在に気が付いていたなんて……」
(;^ω^)「それより、『粗チン』は二人揃わないと意味が無いのに……。なぜ兄者君だけを攫ったんだお」
/ ,' 3「たぶんあやつが嗅ぎ付けたんじゃろ。映像を見た限りではは瀬川のやつ等、想像体になっておったわ」
_
(;゚∀゚)「は瀬川を動かせるやつが、向こうにもドクオ以外にいたんですか?」
/ ,' 3「あぁ……それも一人ではない。三人もじゃ。は瀬川のやつ等、三匹もおったわい」
- 85 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/12(月) 23:59:39.29 ID:UZk/O0aI0
- _
(;゚∀゚)「三人も!?」
(;^ω^)「ドクオ君レベルの妄想力の持ち主が、そんなに集まるだなんて常識的には考えられませんお」
/ ,' 3「あぁ、普通はそうじゃろう。だが、操らr( <_ )「……戻る」
/ ,' 3「ん?」
荒巻、長岡、内藤。
三人の会話を切るように、弟者が小さく呟く。
俯き加減で、表情は見えない。
_
(;゚∀゚)「……わかった。今乗り物を手配するから待ってろ」
長岡が小さく頷き、自身の忍具を弄り始めた。
それからしばらく無言の時間が続く。
_
( ゚∀゚)「お、来たな」
長岡が部屋の片隅に目を見遣る。
すると長岡の視線の先の畳が小さく円状に光り始め、やがてそれは人の形へと変化した。
|/゚U゚| + 激しく到着 +
_
( ゚∀゚)「とりあえず今日はゆっくり休め。色々とありすぎた」
( <_ )「……」
弟者は無言で跨り、そして淡い光に包まれて消えていった。
- 89 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/13(火) 00:01:40.32 ID:cCfKSAmq0
- (;'A`)「あの……」
弟者がいなくなった部屋に、ドクオの声がか細く通る。
( ^ω^)「どうしたんだお?」
(;'A`)「兄者君は……兄者君は大丈夫なんでしょうか?」
内藤の問いに返したのは、兄者の心配。
兄者を助けきれなかった。
そのことが、ドクオに自責の念を促していた。
(;'A`)「俺があの時兄者君を引っ張り出せてたら……兄者君は……」
/ ,' 3「安心なさい」
しゃがれた声が、優しく響く。
ドクオの不安を包み込むかのように、深く。
/ ,' 3「肉体を傷付けられない限り、死にはしないんじゃ。植物人間のような状態にはなってしまうけどのう」
(;'A`)「本当ですか……?」
/ ,' 3「あぁ、信用するんじゃ」
力強く、荒巻が頷く。
いつもは奇怪にしか映らないピンクの忍び装束も、この時だけはドクオに安心感を与えてくれた。
- 96 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/13(火) 00:04:03.56 ID:cCfKSAmq0
- |/゚U゚| + 激しく到着 +
ドクオが荒巻の言葉によって安心した瞬間、またも部屋の片隅が光って忍者が現れた。
あまりにも唐突な出現に、ドクオはしばらく言葉を忘れ忍者を眺める。
そして、しばらくの間の後。
(;'A`)「え……なんでこのタイミング……?」
小さくドクオが呟いた。
_
( ゚∀゚)「さっさと今のことを弟者に伝えといてやれ。少しは慰めにもなるだろ」
( ^ω^)「僕らが言うよりも君から言った方がきっと弟者君の助けにもなるお」
ドクオの呟きに合わせ、二人が声をかける。
どうやらドクオを気遣い、忍者を呼んでおいてくれたらしい。
先に帰った弟者に、兄者の状態を伝えさせるために。
(;'A`)「あ……ありがとうございます」
そう言って、ドクオは忍者に乗り込む。
尻を軽く叩き、忍者が移動を始める瞬間。
(;'A`)(なんで弟者君に直接言わなかったんだろ……?)
小さな疑問が脳内に浮かび、そのまま部屋を去っていってしまった。
- 100 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/13(火) 00:06:04.64 ID:cCfKSAmq0
- / ,' 3「さて……困ったことになったのう……」
弟者とドクオのいなくなった部屋で、荒巻がため息混じりに言葉を紡ぐ。
_
( ゚∀゚)「何故、は瀬川が上の世界で更に発生したか、ですか」
/ ,' 3「いや、今回のは瀬川はドクオ君が前に生み出したやつじゃろう。問題なのは上にバルケンの手駒がいることじゃ」
_
(;゚∀゚)「な……? そいつらがは瀬川を動かしていたと?」
/ ,' 3「あぁ、そうじゃろう」
(;^ω^)「でも、そんなこと生半可な妄想力じゃできませんお」
/ ,' 3「だからきっと、バルケンのやつが操っておるんじゃろう」
また一つ、荒巻の口からため息が漏れる。
ため息の数だけ、部屋の空気が暗く、重くなっていった。
(;^ω^)「そんな……何故ですお?」
/ ,' 3「一つはバルケンがどこかしらでドクオ君達がこちらにいることを知って、身近なやつに狙わせたんじゃろ。
事実、操られていたであろう三人はドクオ君達のクラスメイトのようじゃったからの」
内藤の疑問に、荒巻が答える。
まるで台本を読んでいるかのように、ただ淡々と。
- 108 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/13(火) 00:08:49.43 ID:cCfKSAmq0
- _
(;゚∀゚)「操られれば足りない妄想力も補えると?」
/ ,' 3「うんにゃ、ちょいと違うの」
長岡の言葉を、軽く否定。
その口で、荒巻は言葉を続ける。
/ ,' 3「操られたところで個々の妄想力に変化は無いじゃろう。だからこそ、操るんじゃ」
_
(;゚∀゚)「……?」
まだ今一理解できていない様子の長岡。
そんな彼の顔を一目見て、ふぅ、と小さくため息。
荒巻の口が再度開く。
/ ,' 3「まだわからんのかい。あれじゃ。つまりバルケンは人を操って『見学』と同じ状況にしたんじゃ。
それもただの見学じゃなく、ドクオ君達のやったような代理を通しての見学じゃな」
(;^ω^)「……あ!」
内藤が突然、声を上げた。
どうやら長岡よりも先に理解したようだ。
(;^ω^)「そうか……確かに操って想像させれば想像体になれますお」
- 109 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/13(火) 00:10:52.22 ID:cCfKSAmq0
- _
(;゚∀゚)「……?」
/ ,' 3「どうやらまだ長岡はわからんようじゃの」
長岡の様子を見て、荒巻が察する。
そして、追加で説明を続けた。
/ ,' 3「まず見学はどのような原理で行う?」
_
(;゚∀゚)「対象となる者の想像、妄想に乗って向こうの世界を見ることができます」
/ ,' 3「そうじゃ、では次。対象となる者がいない場合はどうする?」
_
(;゚∀゚)「代理となる者。我らにとっての乗り物ですが、それを送り見学者を想像させます。まずは自分の動きを想像。
それを代理の者が察知し、その想像通りに見学者を動かしてくれます。……あぁ、なるほど」
/ ,' 3「それをそのまま上の人間で代用したのがバルケンの方法じゃ」
やっと理解した様子の長岡。
荒巻は少々、安心したような表情を浮かべた。
狭い部屋に、三様の忍び装束。
風の入る隙間も無いのに、微かに揺れている。
それは、彼らが動き始めた何よりの証拠である。
- 113 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/13(火) 00:13:23.57 ID:cCfKSAmq0
- / ,' 3「しかし、あやつらが仕掛けてくるのがこんなにも早いとはの……。うかうかしてられん。
明日からドクオ君達には忍者の修行を受けてもらうぞい。幸い、種を二人とも忘れていったしのう」
(;^ω^)「やっぱり、彼らも戦闘員として数えるのですかお?」
荒巻の発言に、内藤が若干焦りながら質問を投げかける。
室内の空気が、微かに揺れた。
/ ,' 3「当たり前じゃ。特にドクオ君の素質は放ってはおけんじゃろ」
(;^ω^)「じゃあ今日中に彼らの忍具を?」
/ ,' 3「あぁ、悪いが内藤。ちょっとこの種たちを職人の所へ持って行ってくれんかの」
荒巻が畳に置いてある木刀を二本手に取り、内藤に向けて差し出した。
ピンクの忍び装束から微かに見える、皺だらけの手。
それに握られた木刀が、やけに重そうに見える。
(;^ω^)「……把握ですお」
しっかりと木刀を受け取り、小さく頷く。
放置されている木刀は、兄者の物なのだろう。
少し確認をして、内藤は忍者を呼び寄せるよう長岡に頼んだ。
( ^ω^)「長岡、乗り物の手配を頼むお」
- 117 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/13(火) 00:15:36.57 ID:cCfKSAmq0
- _
(;゚∀゚)「ったく、何で毎回俺が乗り物呼ぶ係なんだよ」
(;^ω^)「すまんお……、僕の忍具大きいから持ち運びに不便で……」
_
(;゚∀゚)「あいよ。何度もその言い訳は聞いたわ。ちょっと待ってな」
渋々内藤の要求を呑んだ長岡。
手元に巻かれた忍具を弄り、忍者を呼んでいる。
|/゚U゚| + 激しく到着 +
部屋の片隅に光と共に忍者が現れた。
内藤はそれに歩み寄る。
( ^ω^)「ありがとうだお、長岡。それじゃあまた明日」
数回忍者の背中を叩き、汚れが付いていないことを確認して乗り込む。
尻を軽くたたいた瞬間に周囲が光り、それが収まるころには既に内藤の姿は無かった。
/ ,' 3「それでは長岡はあの二人に、明日の昼過ぎにわしの部屋に集まるように後で伝えといてくれ。
その頃にはもう忍具も完成しとるじゃろうしな」
_
( ゚∀゚)「了解です。それではまた明日」
この二人の会話を最後に、長岡もまた、姿を消した。
荒巻は倒れている兄者に目をやり、歩み寄る。
- 122 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/13(火) 00:17:27.15 ID:cCfKSAmq0
- / ,' 3「すまんのう……。元はといえば、わしの痴話喧嘩のせいで……。謝っても謝りきれんわい」
反応も無く、ただ呼吸しているだけの状態となった兄者。
見つめる荒巻の目には、申し訳なさが見え隠れしていた。
/ ,' 3「絶対助けてやるからの……。家内の敵を取ると同時にな」
兄者の自前の黒い忍び装束。
荒巻の妻の遺品となったピンクの忍び装束。
暗い色と明るい色が、いやに対照的であった。
/ ,' 3「それじゃあ君はわしの部屋で寝ていてもらうかの」
どこからとも無く荒巻の忍具、座布団を取り出す。
ごく平均的なサイズ、紫色で中央に窪みがあり、四隅には馬の尾を連想させるような飾りが付いていた。
/ ,' 3「さぁ、帰るぞい」
荒巻が兄者を背負い、座布団の窪みを押した。
今までの例に漏れず、部屋の片隅が光ると同時に忍者が二人現れた。
|/゚U゚| + 激しく到着 +
|/゚U゚| + 激しく到着 +
荒巻と兄者を乗せ、忍者は消えていく。
誰もいなくなった見学室。
放置された壷が、少しだけ転がった。
- 125 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/13(火) 00:20:00.30 ID:cCfKSAmq0
- ( ^ω^)「……そろそろだお」
忍者が移動する際に発生する、大きな風圧に耐えながら内藤は小さく呟いた。
どうやらもう職人の家まであと少しらしい。
町並み、屋根と屋根の間を乗り物が飛び跳ねながらも、内藤は下で送られている生活を眺める。
忍具を使ったかくれんぼや鬼ごっこ。
乗り物の忍者を使ったツーリングなども見て取れた。
( ^ω^)「平和が一番、だお」
内藤の言葉を残し、忍者は物凄い速度で走り抜ける。
停滞している空気も、高速で移動する内藤からしてみれば驚異的な風となる。
振り落とされぬよう、忍び装束を風に弄ばれながら乗り物にしかと掴まった。
|/゚U゚| + 激しく到着 +
( ^ω^)「お、着いたかお」
空気の動きを感じなくなる。
とある一軒の小屋の前で、忍者が足を止めた。
そこらに小さな穴が見える、古そうな小屋だった。
( ^ω^)「お邪魔しますおー」
『は~い』
- 131 : ◆qvQN8eIyTE :2008/05/13(火) 00:23:59.13 ID:cCfKSAmq0
- 内藤が声を投げかけながら小屋に入る。
すると、奥からトタトタと軽い音を立てながら一人の少女が姿を現した。
从'ー'从「いらっしゃいませ~。あ、内藤君だぁ~」
まだあどけない表情、クリッとした大きな目が内藤を捕らえる。
ふわり、軽さを感じさせるような緩いパーマは、どこか安らぎを感じさせてくれた。
また小柄ながらも、飛び出るところは飛び出ていて、彼女の着る忍び装束がそのボディーラインを更に強調している。
( ^ω^)「渡辺ちゃん、久しぶりだお。早速だけどこの種……」
内藤が渡辺に木刀を差し出す。
小さな手を精一杯広げ、渡辺はしっかりとその木刀を受け取った。
从'ー'从「ふえぇ~? これを忍具に仕上げとけば良いの~?」
( ^ω^)「そうだお。できれば明日の昼までにはお願いしたいお」
从'ー'从「うん! 私に任せて~! 結構種も成長してるし頑張ればすぐ出来るよ~」
童顔な渡辺は、その幼い顔一杯に笑顔を映えさせて、大きく首を縦に振った。
その時に髪から、とても良い匂いが漂ってきたのを内藤は感じた。
(;^ω^)(おっおっ……勃起が止まらんお)
若干前屈みになりながら、内藤は渡辺の家を離れた。
ドクオ、弟者の忍具を渡辺に任せ。
内藤は、行きに乗ってきた忍者に跨り、再度風となり自宅へと戻っていった。