2 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:22:10.76 ID:ebACn4TA0
第十話 〔お久しぶり〕



部屋の中に、高音が連続で響く。
目覚まし時計を連想させるそれは、住民の安眠を容易く妨害した。

(ぅA`)「ん……。何この音……?」

寝ぼけ眼で辺りを手探る。
昨日までは何もなかった。
しかし、今は睡眠を妨害するほどの音が鳴っているのだ。

その原因を、ドクオは探っていた。

(-A`)「これ……かな……?」

ドクオの手が、硬質な何かに触れる。
まだ冴えない頭で、それが何かを考えた。
しかし、何もない部屋に音を発する物など、考えつくはずもなかった。

('A`)「これは……木刀……?」

やっと眠気の支配から抜け出した目が、触れた物を捉えた。
音の正体は、黒光りした木刀であった。
3 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:24:27.31 ID:ebACn4TA0
木刀が、微かに震えながら高音を出している。
よく見ると、剣の側部に小さなモニターらしき物も確認できた。

('A`)「……?」

うっすらと、モニターに映る文字が確認できる。
どうやら数字のようだ。

('A`)「時計かな……?」

モニター上の数字は、点滅しながら数字を重ねていく。
【7:03】
そう表示されたモニターをドクオは見つめる。

('A`)「これが時計ならもう朝……って」

(;'A`)「なんで木刀に時計が!?」

脳も眠気から醒めたのか、やっと異変に気付く。
眠る前まではただの木刀であった。
目覚めてみたら、何故か目覚まし時計の機能を備えていた。

(;'A`)「え? 何がおきてんのこれ?」

ドクオはただ、混乱するばかり。
すると、木刀に異変が起きる。
6 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:28:00.59 ID:ebACn4TA0
代わりに表示されるのは、電話のマーク。
小さな半円の上に、やたら大きな受話器が乗った、あのマークだ。

『お前らちゃんと起きたか? 起きたならさっさと俺の部屋に来い』

Σ(;'A`)ビクッ「!?」

唐突に、聞き慣れた声が木刀から出てきた。
木刀の何処から音が出るのだろう。
そんなドクオの疑問を無視して、長岡の言葉が響く。

『ちゃんとお前らの種を持ってこいよ』

その声を最後に、木刀の光が収まる。
モニターの電話マークも、時計の表示に変わっていた。
【7:06】

('A`)(なんかよくわかんないけど長岡さんとこ行けば良いんだよね……)

木刀を握り、立ち上がる。
正直、顔も洗いたいし歯も磨きたい。
しかし、長岡の存在があるために、ドクオはそんな悠長な事を言ってなどいられなかった。

('A`)「よっ……と」

一枚の壁に身体を預ける。
ドクオの体重に押された壁は、ゆっくりと回転を始めるのであった。
8 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:32:05.25 ID:ebACn4TA0
(´<_` )「……うす」

(*´_ゝ`)「zzz……」

扉の外、板張りの廊下には、似通った兄弟がいた。
未だ寝ている兄者を、弟者が引っ張っている。
その手に抱えられた、二本の木刀。

('A`)「あ……、おはよう」

目が合い、挨拶を交わす。
何とも言えない空気が三人を包み込んだ。

(´<_` )「とりあえず行くか」

(*´_ゝ`)「zzz……」

('A`)「うん……。そうだね」

眠っている兄者を引き摺りながら、弟者が歩き始める。
そのすぐ後ろを、ドクオが付いていった。

(;'A`)(あれだけうるさい音が鳴ってたのに兄者君は起きなかったのかなぁ……)

歩きながら、ドクオは漠然と考えていた。
今目の前で首根っこを掴まれている兄者について。

('A`)(まぁ……どうでもいいや)

結論は三秒で出た。
9 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:35:47.25 ID:ebACn4TA0
  _
( ゚∀゚)「よう、お前ら。ちゃんと起きられたんだな」

回転する扉の向こうには、上下白のスウェットを着込んだ長岡がいた。
昨日の忍び装束と偉く対照的な服装。

(;'A`)(うわ……長岡さん、DQNみたい……)

長岡の雰囲気によって、ドクオは若干退いていた。
足元を見れば、汚く解れたキティのサンダル。
畳の上にも拘わらず履いている。

身体にはだいぶ大きめのスウェットを纏う。
頭は、前髪を纏めて髷のように留めていた。
DQN以外の何者でもない風貌だ。

(´<_`;)「……」

ドクオが弟者を一目見る。
どうやら、ドクオと同じく引いているらしい。
  _
(#゚∀゚)「おい! いきなりシカトか?」

唐突に長岡の怒声が響く。
身なりと相まって、普段以上に迫力が増していた。

(;'A`)「ひぃっ! す、すいません!」

ドクオが思わず情けない声を上げた。
13 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:40:17.61 ID:ebACn4TA0
(*´_ゝ`)「すげぇ! 田舎ヤンキーだ!」

弟者の足下で、寝ていた兄者が目を覚ます。
開口一番。
兄者の意図とは関係無しに、兄者は長岡を罵った。
  _
(#゚∀゚)「……」

長岡が無言で忍具を弄り始める。
数秒後。
そこには部屋中の埃を身に纏う兄者の姿があった。

(; _ゝ )「ゲホッ! うぇええぇ……」

(´<_`;)「……」

間近で弟者は兄者を観察。
学習能力のない自分の兄を、どう躾けようか悩んでいるようであった。
  _
( ゚∀゚)「とりあえず、だ。お前らの種、ちゃんと成長していたか?」

忍び装束に着替えた長岡が、三人に問う。
長岡の目は、それぞれの持つ木刀に向けられていた。

(;'A`)「あぁ、この木刀……急に変なモニターと音が……」

(´<_`;)「木刀のくせに目覚まし機能とかどうなってるんすか」

(; _ゝ )「ゴホッ! ゴホッ! ひゃぅぅ!」
16 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:43:32.07 ID:ebACn4TA0
  _
( ゚∀゚)「よしよし。ってことは、ちゃんと成長しているな。俺の声も届いたか?」

三人の答えに満足そうに頷く。
先程のスウェット姿からは連想も出来ないような良い笑顔だ。

(´<_` )「そりゃもうバッチリ」

(; _ゝ )「うわっ、何か毛穴から変な汁出てきた……」

藻掻き苦しむ兄者を傍目に、弟者が答える。
兄者が一つ、行動を起こすたびに夥しい量の埃が宙に舞う。
弟者にとってはそれが正直、鬱陶しかった。
  _
( ゚∀゚)「おk。それじゃあまた長老んとこ行くぞ。そろそろ乗り物が来るはず……」

|/゚U゚| + 激しく参上 +
|/゚U゚| + 激しく参上 +
|/゚U゚| + 激しく参上 +
|/゚U゚| + 激しく嫌悪 +

長岡の言葉が言い終わる前に、壁が回転を始める。
四人の、姿形全てが同じな忍者が部屋に入ってきた。
一人だけ、若干嫌そうな顔をしている。

(´<_` )(あの嫌悪してるやつが昨日兄者を運んだ奴だな……)

弟者は軽く予想した。
そして、その予想に確信を持っていた。
20 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:46:42.08 ID:ebACn4TA0
|/゚U゚| + 激しく跳躍 +

三人がそれぞれ忍者に乗り、尻を叩く。
忍者は一斉に飛び上がり、天井を抜けていった。

(*´_ゝ`)「ああんwwwwらめぇwwwwwww」

|/゚U゚| + 激しく嫌悪 +

兄者を運ぶ忍者だけは、兄者が跨る事を許さなかった。
首根っこを掴み、やはり嫌そうな雰囲気を醸し出しながら。
そして、兄者を引っ張っていった。

天井を抜け、広がるのは青空。
この空の上には、自分達の生活していた世界がある。
しかし、そんなことなど考えられなかった。

青空は、何処までも高く広がっていたのだ。

(´<_`;)(そういや俺らの世界では、俺らがいなくなってどうなってんだろ)

空が見えたせいか。
弟者が、一末の不安を思い浮かべた。

|/゚U゚| + 激しく走行 +

(´<_`;)「うわっ」

急な加速に、弟者は深く考える余裕をなくす。
浮かんだ不安は、忍者の速度に付いてこられずに置いて行かれる事となった。
26 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:50:30.00 ID:ebACn4TA0
|/゚U゚| + 激しく到着 +
|/゚U゚| + 激しく到着 +
|/゚U゚| + 激しく到着 +
|/゚U゚| + 激しく放棄 +

砂煙を上げながら、荒巻の家に着く。
兄者を除く三人は足を取られぬよう、慎重に忍者から降りる。
兄者を引っ張っていた忍者は、地面へと兄者を放った。

(*´_ゝ`)「痛wwwでもそれが気持ち良いwwww」

地球を布団にした兄者は、横たえながら藻掻いていた。
前から来ている自前の忍び装束は、既に至る所に穴が開いている。
忍者の里に来てから兄者が何回も痛めつけられていたからだ。
  _
( ゚∀゚)「お前らもだいぶ乗り物に慣れてきたようだな。そんじゃ行くぞ」

兄者の言動に一々反応するのが面倒になったのか、長岡が兄者を見向きもせずに歩き出す。
ドクオと弟者も、それに続いた。

|/゚U゚| + 激しく放置 +
|/゚U゚| + 激しく放置 +
|/゚U゚| + 激しく放置 +
|/゚U゚| + 激しく放置 +

忍者達すらも兄者を置いていく。
残された兄者はただ一人、ひたすら感じていた。

(*´_ゝ`)「放置プレイうめぇwwww」
30 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:53:33.50 ID:ebACn4TA0
/ ,' 3「おぉ、きたかい。おはよう。おい、内藤。お客さんじゃ」

まずは普通の扉から入る。
そして、朝から忙しなく働く機械達を傍目に、玄関脇の回転する扉を潜った。
するとすぐに、ピンク色の忍び装束が目に入ることとなる。
  _
( ゚∀゚)「おはようございます」

(´<_` )「……どうもっす」

( ^ω^)「おはようだお!」

(;'A`)「おはようござ……えぇ!?」

それぞれが朝の挨拶を交わす中、ドクオだけが最後まで言い切れなかった。
部屋の中に、ドクオの探し求めていた忍者、内藤がいたから。

(;^ω^)「お……おはよう、だお」

内藤が戸惑いながら、挨拶をし直す。
ドクオの顔を覗き込み、どこか不安そうな様子だ。

(;'A`)「に……」

('A`)「に……」

('∀`)「忍者だ!」

ドクオの叫びが、部屋に響き渡る。
顔には、満面の笑み。
34 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 20:57:14.06 ID:ebACn4TA0
('∀`)「やっぱり忍者はここにいたんだ! 会えた! やっと会えたよ!」

(;^ω^)「おぉ……会えたおね」

('∀`)「久しぶり! 急にいなくなるからビックリしたよ!」

(;^ω^)「あぁ、お久しぶりだお」

('∀`)「何で急にいなくなっちゃったの? あ、別に怒ってるわけじゃないからね。
    ただ、不思議だったんだ。あんなに俺の事を見守ってくれていた君がいなくなっちゃったからさ」

(;^ω^)「あの、いなくなった理由はですお……」

一方的に捲し立てるドクオに、タジタジな内藤。
念願の人物に会えたドクオは周りが見えなくなっている。
普段からは想像の付かないドクオのテンションに、部屋の人間は唖然としていた。

(;^ω^)「えっと……ドクオ君に友達ができたお? それで僕を見なくなり始めたからもう見学は良いかなって……。
       というかあれは厳密に言えば僕であって僕ではないような……。えっと、何から話せばいいんだお」

内藤が口籠もりながら、返答をする。
その中の単語に、ドクオは反応した。

('A`)「俺に……友達……? ……あっ」

脳内に浮かぶ、ショボンの顔。
一時は本気で友情を信じていた相手。
だが、簡単にドクオの信頼を裏切った人間。
37 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:01:18.17 ID:ebACn4TA0
(;'A`)「あれは……違うんだ……」

唐突に俯き、打って変わってネガティブな空気を創り出す。
あまりの変化に、内藤は更に戸惑った。

(;^ω^)「え? 違うってどういう事だお? ちょ、あんなに楽しそうに笑ってたのに」

(;'A`)「いや、友達じゃなかったんだ……」

(;A;)「仲良くなれたと……思ったんだけどなぁ……」

大粒の涙が、ドクオの両頬に一本ずつ道筋を作った。
そこを辿り、何滴もの涙が落ち始める。
気付けばドクオは泣いていた。

ショボンと共に過ごした時間。
例え偽りだったとしても、ドクオにとっては充実した時間であった。
初めての、友達という物を感じさせてくれた。

(;A;)「やっぱり、俺には友達なんて……無理だよね……」

(;^ω^)「いやいやいやいや、そんなことないお! えっと……、誰か助けてー!」

ドクオの対応に困ったのか、内藤が周囲の人間に助けを求めた。
さっきまでは最高の笑顔、今はクシャクシャの泣き顔。
激しすぎる感情の移り変わりを前に、それは仕方のない事なのだろう。
41 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:05:34.27 ID:ebACn4TA0
(´<_` )「よくわからんが、アンタがドクオの友 達だと思ってたやつはショボンっていういじめっ子だ。
       罰ゲームで仕方なくショボンがこいつの友達のふりをしていただけってわけ」

(;^ω^)「お?」

内藤の困惑した表情を見てられなくなったのか、弟者が口を挟む。
その助け船に、内藤は反応した。

(;^ω^)「あの子は違ったのかお……。もう僕がドクオ君の孤独を紛らわさなくて良くなったと思ったのに……」

(;A;)「そっか……、俺は普段から忍者に気遣わせていたんだね。ごめん」

(;^ω^)「いや、ちょ、あの、気にしないでくれお!」

内藤が両手を突き出し、バタバタと動かす。
先程からひたすらドクオに気を遣っている。
そこが、内藤の人の良さを映し出していた。

(ぅA;)「本当に、ごめん……」

涙を拭いながら、謝る。
嫌な沈黙が、部屋の空間を満たした。

(;^ω^)(これはどうすればいいんだおー……)

内藤はひたすら、混乱していた。
42 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:08:36.29 ID:ebACn4TA0
( ´_ゝ`)「で、前から気になってたんだけど見学って何ー?」

沈黙を壊す、脳天気な声。
何時の間に入ったのであろう。
声の元には回転する扉を誰にも知られずに潜って、部屋に侵入し終えた兄者の姿があった。

(;^ω^)「見学って言うのはえっと、なんていうか見に行くわけで……」

しどろもどろになりながらの解説。
あまりにも概念的すぎる説明は、説明としての役割を果たす事はない。
内藤の説明もまた、そうであった。
  _
( ゚∀゚)「つまりだな、俺ら忍者がお前らの世界を見学するんだ。お前らの妄想に乗ってな」

長岡が被せて説明する。
内藤が、何処か安心したかのような表情を浮かべた。

/ ,' 3「今から君らを連れて行く場所にハッキリとした解答があるじゃろう」

最後に荒巻。

(´<_` )「え? 今から移動するんすか?」

/ ,' 3「君らにもう少し忍者の里について知ってもらいたくての」

(ぅA`)「……?」

泣いているドクオを放置して、話は進められる。
物語とは得てしてそういう物なのである。
46 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:12:21.50 ID:ebACn4TA0
/ ,' 3「それじゃあ一旦出るぞい」

そう言って、荒巻は立ち上がり扉へ向かう。
その後を辿り、部屋の中の五人も続いた。
壁が回転する度に、一人ずつ部屋の外へと出る。
  _
( ゚∀゚)「今から見学室に行くんですか?」

/ ,' 3「そのつもりじゃ」
  _
( ゚∀゚)「了解です」

長岡と荒巻が二言三言、言葉を交わす。
そして、しばらく続く沈黙。
全員が出た事を確認すると、荒巻を先頭に歩き始めた。

/ ,' 3「よし、ワシに付いてきなさい」

行く先は、機械音に満ち溢れる工場の方向。

('A`)(……)

泣きやんだドクオは、荒巻の後ろ姿を追いながら漠然と考えていた。
この忙しなく働き続ける機械の先に何があるのだろう、と。
そして、それは自分達にとってどのような効果を及ぼすのか、と。
48 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:15:47.06 ID:ebACn4TA0
( ^□^)「全く……この工場は汚くて嫌だお。あ、自己紹介がまだだったおね。
       僕は内藤。よろしく頼むお」

一体何処から取り出したのだろうか。
いつの間にかマスクを付けた内藤が、歩きながら自己紹介をする。

(´<_` )「あ、どうもっす」

軽く挨拶を返し、それっきりとした。

(´<_` )(……何このAA)

弟者の疑問を置いて、一行は歩き続ける。
ベルトコンベアーの隙間を抜け、手裏剣が山積みになっている籠を避け。
様々な機械が見守る中、ただ歩いていた。

('A`)(結構広いなぁ……)

そうドクオが思い始めた頃、荒巻の足が止まった。

/ ,' 3「ここじゃ」

振り向いて、後続の長岡、内藤を除く三人に声を掛ける。
荒巻の示す方向に目を遣ると、そこにはスイッチが。
それも、今まで見たのとは違う。極端に大きなスイッチがあった。

今までのスイッチは大体、十円玉くらいのサイズであった。
だが、今ドクオ達が見ているスイッチはどうだろう。
自転車のタイヤくらいあるのではないのかと思われる程の大きさだ。
51 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:18:50.42 ID:ebACn4TA0
/ ,' 3「よっこいしょ」

荒巻が、スイッチに身体を預ける。
するとスイッチが、彼の体重で少し壁に埋まる。
と同時に、眩いばかりの発光。

(;'A`)「うわっ!」

一瞬、あまりの眩しさにドクオは目を逸らす。
ほんの一瞬。
ただ、それだけだ。

(;'A`)「……え?」

その一瞬で、光に包まれた荒巻の姿は、何処にも残っていなかった。
綺麗さっぱり消えてしまったのだ。

(*´_ゝ`)「すげぇ! ライトアップライトアップ!」

兄者が一人で興奮しながら、不可解な言葉を叫んでいる。
そんな兄者を傍目に、弟者もただ困惑するばかり。

(´<_`;)「え? 扉が回転とかじゃなくて……消えた?」

呆気にとられる二人と、よくわからない兄者。
彼らを置いて、次は長岡がスイッチに身体を寄せた。
55 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:22:50.72 ID:ebACn4TA0
  _
( ゚∀゚)「よっ、と」

そして、発光。
光が止むと、やはり長岡の姿はない。

( ^□^)「君らも付いてきてくれお」

続いて内藤。
彼もまた、光に包まれて姿を消していった。

(;'A`)「……」

(´<_`;)「……」

(*´_ゝ`)「ライト! ライター! ライテスト!」

一人はしゃぎ続ける兄者。
そして対照的に戸惑い続けるドクオと弟者。
聞こえる音は、兄者の声と機械音だけ。

(*´_ゝ`)「Yahoo!」

唐突に、兄者が飛び出た。
何の迷いもなく、巨大なスイッチに身を寄せる。
少しスイッチが埋め込まれたかと思うと、発光して兄者の姿が消えていった。

(;'A`)(´<_`;)「えー……」

ドクオと弟者が同時に声を出す。
57 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:26:47.80 ID:ebACn4TA0
(;'A`)ドウシヨウ (´<_`;)ドウスル カ

しばらくは慌てながらの緊急会議。
しかし、流石に兄者が入って自分達が入るわけにもいかない。
結論は、そんなに時間が掛からずに出た。

(´<_`;)「じゃあ、先いくぞ」

(;'A`)「うん……行ってらっしゃい」

言葉を交わし合った後、弟者がスイッチに近寄る。
身体を寄せ、押し込んだ。
光と共に、弟者の姿が消えて無くなる。

(;'A`)「俺も行こう……」

一人決意し、ドクオが歩み寄る。
何故か、足が震えた。
よく貧乏揺すりでバカにされていた事を、何故かこのタイミングでドクオは思い出す。

しかし、今の状況とさして関係はない。
特に気にする事もなく、ドクオはスイッチに身を寄せた。

(;'A`)「――ッッ!」

カチリ、とスイッチを押し込む感覚。
同時に、目が焼けるかと思うほどの発光。
声を発する間もなく、ドクオの身体は不思議な浮遊感に包まれた。

60 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:31:00.05 ID:ebACn4TA0
視界が白で埋まる。
重力という概念を感じさせない時間。
それがしばしの間流れた。

(;'A`)「っと」

数秒ぶりの重力を感じ、着地の準備をする。
視界は段々と白一色から、多彩な世界になり始めた。
その色と色とが混ぜ合わさって、光景を創り出す。
  _
( ゚∀゚)「お前ら来るの遅いぞ」

/ ,' 3「これで全員揃ったの」

ドクオの視界に映ったのは、先程までいた部屋と同じ、畳敷きの空間。
少し辺りを見渡し、口を開く。

(;'A`)「えっと……ここどこですか?」

まず第一の質問。
既に同じ質問に答えていたらしく、長岡が少しウンザリした顔で反応する。
  _
( ゚∀゚)「ここは見学室だ。ここから上の世界の様子を見る事が出来る」

(;'A`)「上の世界って、俺達のいる世界ですよね? どうやって……」

次に第二の質問。
これも、既に長岡は解答済みらしかった。
またしても、少し面倒そうな顔をする。
61 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:35:08.24 ID:ebACn4TA0
  _
( ゚∀゚)「それはあれを使うんだよ」

長岡が指差す。
その先には、漆塗りの壺が置いてあった。
そして、その横で流石兄弟がその壺を被っていたのだ。

(;'A`)「え? ちょ? え、どういうことですか?」

困惑に困惑を重ねた、第三の質問。
これには、内藤が答える。

( ^□^)「あの壺を被れば、誰かの妄想に乗って自分の意識を上に持っていく事が出来るんだお。
       僕がドクオ君にやったみたいに。でも、誰かが妄想してくれなくちゃ意識が上手く上に留まらないんだお」

(;'A`)「つまり、誰かの脳内忍者になるってこと……?」

( ^□^)「そういうことだお。しかも誰かの妄想に合わせて身体を動かす事が出来るから、乗り物並の動きが出来るんだお」

('A`)「乗り物ってあの忍者の事だよね……。なるほど……」

しばらく考える形をとる。
そして、開口。

('A`)「で、なんで兄者君はともかく弟者君も壺を被ってるの?」

ドクオは、流石兄弟の現状について疑問を持ったらしかった。
64 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:39:40.07 ID:ebACn4TA0
/ ,' 3「弟者君は上の世界で自分がいなくなって騒ぎになっていないか不安らしくての。
    兄者君は部屋に入って壺を見付けた瞬間に、いきなり被りおったわい」

(;'A`)「あ、そうですか……」

荒巻の説明に納得する。
そして、再度考えた。
自分がいなくなって、学校はどうなっているのかと。

元々、いじめられっ子のドクオだ。
いなくなったところで大して気にする者などいないだろう。
むしろ、喜んでいる者もいるかも知れない。

('A`)(でも、ちょっと気になるかな……)

どうせ脳内忍者。
全ての人の目に触れるわけではない。
それならば、少しだけでも見てみても良いか、という考えがドクオの中で浮かび上がった。

('A`)「俺も……被ってもいいですか、壺」

/ ,' 3「もちろんじゃ」

温厚な笑顔で、荒巻が答える。
その雰囲気に、上の世界に対するドクオの緊張が少し、ほぐされた。
66 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23(日) 21:44:28.98 ID:ebACn4TA0
  _
( ゚∀゚)「一応上の世界にはお前らの代理を送ってある。そいつの妄想に乗ると良い」

('A`)「わかりました」

長岡の言葉に頷く。
そして、壺を手に取った。
掌に、しっかりとした重量を感じる。

('A`)(行くぞ……!)

頭へ壺を持ち上げ、そして被せた。
光が遮られ、一瞬だけ暗闇に覆われる。
数回、瞬きをした。

('A`)(え? ここは……?)

瞬きを終え、目を開けた時。
ドクオの身体は電線の上に立っていた。
何故だか、異常に安定している。

(´<_` )「お、お前も来たのか」

同じ電線の先に、弟者も立っていた。
こちらを向き、声を掛けてくる。

(´<_` )「とりあえず、あれ見てみろ」

('A`)「あ、うん……」
71 名前: ◆qvQN8eIyTE 投稿日: 2008/03/23 (日) 21:47:18.91 ID:ebACn4TA0
弟者が顎で示す方向に目を遣る。
大きくそびえ立つ、だいぶ汚れた白い壁。
そこには、ドクオ達の通う学校があった。

(;'A`)「あそこ、俺達のクラスだよね……」

ドクオの目には、窓越しに見慣れた教室が映っていた。
少し、身体が強張るのが感じられる。

(´<_` )「あぁ、そうだ。で、」

(´<_`;)「たぶん俺らはあいつら代理の脳内忍者なわけなんだが……」

少し戸惑いを見せながら、弟者が指差す。
そこには、確かな違和感。

|/゚U゚| + 激しく毒男 +
|/゚U゚| + 激しく兄者 +
|/゚U゚| + 激しく弟者 +

ドクオ達の代理であろう忍者が、激しく自己主張をしながら外を見ていた。
しっかりと、代役をこなしているようである。

(;'A`)「あんなんで俺らの代理、務まるんだね……」

(´<_`;)「気付く奴は一人も居ないのかよ……結構ショックだ」

二人は、電線の上で少し凹んでいた。
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